ライラは魔族という存在について半信半疑だった。しかし、それをいつまでも疑っていては話が進まないので、エリクに頭を下げて詫びた。
「……ごめんなさい。あなたが前置きをしてくれていたのに、怒鳴ってしまったのはいけなかったわね」
「いえ、そのような反応をされるのは想定内です。なにせ信じがたい話ですから」
エリクはライラの態度を気にした素振りもなく、淡々と話を続ける。
「おそらく彼らは瘴気によって操られている状態なのだと思われます」
「瘴気に操られている? 人間が瘴気に侵されたら、自我を失って暴れまわるはずじゃないかしら」
「軍は瘴気について調査していますから、そういった事案については確認済です。どのようにしてかはわかりませんが、瘴気は一部の魔族が使う力であるということがわかっています」
「……へえ、そうだったのね」
本当に、にわかには信じがたい話だ。
ライラはこれまでに何度も瘴気の浄化を行なってきた。一般人よりは瘴気に関わることは多かったはずだが、魔族になど出会ったことがない。
「私は今までに一度も魔族の存在なんて感じたことがないのだけれど……。どこかですれ違ったりしているのかしらねえ」
「ご存じの通り、魔族は勇者という人間に痛い目に遭わされています。よほど慎重になっているのか、表にはなかなか出てきません」
「慎重って、そうはいってもね。魔王が倒されたのって、それこそ何百年も前の話でしょう? そんなに長い間ずっと姿を隠しておけるものかしら」
「軍など一部の者は存在を知っています。が、広く知られるべきではないとの判断なのです」
「……そう、なのね。でも、私とか精霊術の使える者には教えてくれたっていいのに……」
考えてもみれば、ライラは瘴気がどこから発生しているのか知らない。
生き物にとって良くないものだという認識はあるが、なぜ害を及ぼすのかなど、深く考えたことはなかった。
「勇者は精霊術の使い手でした。今でも精霊術師が重宝されるのはそういう理由もあるからというのはご存じですよね?」
「それは知っているわよ。だから何だっていうのかしら?」
「魔族たちは勇者の件で得た教訓から、精霊術師にはうかつに関わらないようにしているのだと思われます。彼らの王ですら敵わなかったのですから」
「……ええ? 魔族ってそんなにこそこそしているイメージないけれど、それなりに頭が切れるかしらね」
ライラが困惑しながらそう答えたとき、ようやく馬が湖に到着した。