「やっと隙ができたわね」
ライラは衝撃で動けなくなっているイルシアの背後に立った。
うっすらと微笑みを浮かべながら、両手で包み込むように彼の首筋に触れて話しかけた。
「もしかして、私を殺してしまったなんて思ったりしたかしら?」
「………………な、なんで?」
固まったまま動けないでいるイルシアが、声を震わせてなんとかそれだけ言った。
彼の正面には胸を貫かれてぐったりしているライラがいる。まさか背後から声が聞こえるとは思わなかったのだろう。
「それはただの氷細工よ」
ライラはイルシアの耳元でそっとささやいた。
すると、槍で貫かれていたライラの身体がただの氷の塊へと姿を変える。
氷の塊は炎に包まれたイルシアの槍をバリバリと音を立てながら凍らせていく。
「っな! くそ、抜けない!」
イルシアは槍を氷の塊から抜こうとするが、あっという間に全体が氷で包まれてしまう。
それどころか、ライラが触れているイルシアの首筋や足元から、徐々に彼の身体が凍りついていく。
やがて氷はイルシアが全身にまとっていた炎を消し去った。そのまま彼を身動きが取れないように拘束してしまう。
「確実に殺したと確認するまで油断したら駄目。そもそもこんな森の中で強い力を使うことは感心しないわね」
ライラはそう言いながら、イルシアの身体に背後から手を這わせた。
「こっちかな? あれ、ないなあ。こっちかしら?」
ライラはイルシアの服の中に無遠慮に手を突っ込んでコインを探す。
ごそごそと彼の全身を探し回るが、なかなかコインが見つからない。
「ごめんね。すぐに終わるから我慢して、んん?」
ライラの指先が冷たい何かにこつんと触れた。
やっとこんなことを終わらせられると、ライラが上機嫌にそれを掴み取ろうとしたときだった。
それまで黙って身体を弄られていたイルシアが唸り声を出す。
「……うううううう」
ライラがイルシアの様子に違和感を覚えた瞬間、彼からとてつもない殺気が放たれた。
ライラは咄嗟にイルシアから大きく距離を取る。
「っああああああああああ!」
イルシアは腹の底から響く雄叫びを上げた。
彼の身体を拘束していた氷の塊がひび割れていく。
「うらあああああああ!」
イルシアがさらに大きな声を上げる。
すると、彼の身体を覆っていた氷が全て弾け飛んでしまった。
「……うへえ。頑張るわねえ」
ライラは弾け飛ぶ氷を避けながら、げんなりしてしまう。
だが、顔を真っ赤にして再び全身に炎をまとわせているイルシア見てすぐに気持ちを切り替えた。彼を落ち着かせるように優しく声をかける。
「……さっきも言ったけど今は試験中だから、ね? そこまでガチンコで戦う必要はないとね、お姉さんは思うわけですよ」
「んなの知らねえよ! 真面目に戦いやがれ‼」
イルシアは怒りに身体を震わせて叫ぶ。
「何がお姉さんだよ。人の身体をべたべたと触りやがって気色悪い! ふざけんな!」
「ええー……。それはイルシア君がコインをポッケの奥にしまったからいけないんじゃないかしら」
ライラはそう言いながらコインをイルシアに見せつける。
「自分の受験番号のコインを持ち帰る」
十五という数字の刻まれたコインを手にしているライラを見て、イルシアが目を見開いて驚いている。
すでにコインを奪い取られたとは思っていなかったらしい。
「これでおしまい。もう戦う必要はないわね」
ライラはコインを指で弾いて微笑んだ。