「そんじゃ、遠慮なくいくぜ!」
イルシアは、その言葉を皮切りに動き出した。
イルシアの手にしている槍が一瞬にして炎に包まれる。周囲の空気が一気に熱くなった。
イルシアは炎に包まれた槍を、ライラに向かって勢いよく突き出した。
すると、大きな炎の塊が激しく揺らめきながら、ライラの目の前まで勢いよく飛んでくる。
ライラはその炎が自身の身体に触れる寸前のところで、横に飛びのいてかわした。
しかし、イルシアはそのライラの動きを予測していたのであろう。
ライラが飛びのいた先に、イルシアは一瞬にして移動していた。
イルシアは待っていましたと言わんばかりの得意げな表情で、ライラに向かって遠慮なく槍を突き付けてくる。
「──おっと。いきなり飛ばすわねえ」
ライラはイルシアの一撃を、ひょいと背後に跳躍してかわした。
そのライラの動きに、イルシアは怯むことなくどんどんと足を踏み出して槍を突き付けてくる。
ライラがイルシアを試すように変則的な動きをしてみせても、どこまでついてきて槍を振るってくる。
しばらくの間、ライラはイルシアの動きを観察しながら攻撃を避けるだけという状態を続けた。
「っくそ! 避けてばっかりいないで、ちゃんと戦えよ!」
イルシアはいったん攻撃の手を止めると、こめかみをぴくぴくと痙攣させながら苛立たしそうに叫ぶ。
「いやいやいや。イルシア君が休みなく攻めてくるから、すごく驚いちゃったのよ。元気だなあってね」
「……はあ? 俺のことを馬鹿にしてんのかよ!」
「してない、してないわよ。どちらかというとね、とっても感心していたからね」
「やっぱり馬鹿にしてんじゃねえかよ! ムカつく‼」
ライラが腕を組んで大きく頷くと、イルシアは腹立たしそうに顔を歪めた。
彼の呼び出した火の精霊が身体に纏う炎が、メラメラと大きく揺れ出す。
精霊は呼び出した術師の感情に影響される。
精霊が纏う炎が大きく揺れるのを見て、イルシアが相当苛立っているのだろうなということが、ライラには簡単にわかった。
「もう、そんなに怒らなくてもいいじゃない。ねえ?」
ライラがイルシアの態度に呆れて言うと、呼び出した水の精霊がくすくすと笑いだす。
水の精霊が気怠そうにしながら笑い出すものだから、イルシアは余計に腹立たしくなったらしい。
火の精霊がさらに大きな炎をその身に纏う。
「……ふふふ、若いわねえ……」
ライラは自分にもたれかかってきた精霊の身体をそっと撫でながら、小さな声でささやいた。