「……あ、それって私のプレート……」
「これを見たときの私の衝撃がわかりますか?」
マスターはプレートを見せびらかしながら、背後にいる受付嬢にちらりと視線を送った。その途端、受付嬢はびくりと身体を震わせて顔を青褪めさせる。
「そんなことはわかりませんわ。とりあえず、それを返していただけますか?」
ライラは手を伸ばしてマスターから自分のプレートを返してもらおうとする。すると、マスターはプレートをライラの手の届かない位置にひょいと持ち上げてしまった。
「……そうですか。わかりませんか」
マスターは笑っているが、あきらかに怒っているというのが雰囲気でわかる。
「精霊術師が一人いるかいないかで街の価値が変わるのです。お忘れですか?」
「それは忘れてないわ。申し訳ないけれど、こんな田舎にいるとは思っていなかっただけよ。冒険者の資格が再取得できたら、すぐにでも私はここからいなくなるから安心して」
「もうそれではすまない話になってしまったのですよ。あなたが最初にうちの組合にいらっしゃった時に、私を呼び出してくれれば根回しくらいのお手伝いはできたのに……」
「だったら職員の教育をもっとしっかりとしておくべきだったわね。ろくに相手にされなかったのよ」
「ええ、ええ。該当職員にはよく言い聞かせました。その件については申し訳なかったです」
マスターは頭を抱えて深くため息をついた。
「ですが、あなたがそこで簡単に引き下がらず、強引にプレートを調べさせていれば……」
「その言い分は看過できないわ。私のせいにしないでちょうだい」
「そもそもです。あなたがクロードの用意した土地に行けば何も問題は起きなかったのですよ。取り決めがあったのでしょう?」
ライラは離婚時にクロードが用意していた大量の書類を思い出す。
そこには、ライラが離婚後にどこでどう過ごすべきかなどの細かい約束事が書かれていた。
「私は離婚の届けにサインをしてあの人と別れただけよ。他の書類はあの人が一方的に突きつけてきたの。私はあれに書かれていたことを承諾したわけじゃないわ」
「クロードが一人で決めたわけがないことくらいお分かりでしょう。上の意向が含まれていたものを無視するなんてどうかしてますよ」
泣いて嫌がったものが承諾されたと思っている方だってどうかしている。そうと思ったが、それは口に出さなかった。
「どうしてわざわざ別れた男の世話にならなきゃいけないのよ。そんなの考えればすぐにわかることでしょう?」
「夫婦ではなくなったとしても、クロードはあなたのことを手放したくはなかったでしょうに……」
マスターのこの言葉に、ライラはカチンときて彼を睨みつけた。
「おや、やはり反省はしておられないようですね?」
「あら、反省って何かしら。さっぱりわかりませんわ」
ライラが澄ました顔で言い返すと、マスターはにっこりと穏やかに微笑んだ。
「イルシア君。この人がまったく反省をしてくれないので、おもいっきりやってしまってください」