ライラはイルシアの方へゆっくりと視線を向けた。
イルシアは、先ほど受験者に見本として掲げていたコインを裏返してこちらに見せてくる。
──刻まれた数字は十五。間違いなくライラの受験番号と同じ数字だった。
「……やっぱりね。すぐに見せてくれるなんて、隠しておく気はなかったのかしら?」
「ないね! 気がつかなかったらどうしようかと心配していたくらいだ」
ライラはイルシアの返答に肩をすくめる。
イルシアは素早くコインをポケットにしまうと、背負っていた槍に手をかけた。
「俺はアンタと手合わせがしたいんだ!」
「んー、それは戦わないとコインはくれないってことなのかしら?」
「当然だろ! 試験なんだからただで渡すわけないじゃん。じゃなきゃこんな面倒な役回りを引き受けたりしねえよ」
イルシアは期待に満ちた眼差しでライラを見つめてくる。
キラキラと輝いている瞳が眩しくてめまいがしそうだ。
「うわあ、そんな顔をされてもねえ……。私じゃご期待に添えるかどうかわからないわよ?」
「んなのどうでもいい。さっさとやるぞ!」
早く武器を構えろ、そう言ってイルシアが急かしてくる。
「ねえ、本当に戦わなきゃいけないのかしら? あまり意味がないように思うのだけれど」
「お前に選択肢はない! せっかくすげえ強いやつと出会えたんだ。戦わなきゃ損だろうが!」
イルシアがライラに向かって足を踏み出した。
「──ちょっと待ったあ!」
今にもイルシアがライラに向かって飛びかかってきそうなところで、八番の男が声を上げた。
「こんなところに一枚コインがあるなんてラッキーだな」
にやにやと笑いながら、八番の男はライラとイルシアの間に割って入ってきた。
イルシアの表情から、先ほどまでの機嫌の良さが嘘のように明るさが消える。
彼の緋色の瞳がゆらゆらと不気味に揺れ始めた。
「俺の持っているコインはアンタの受験番号じゃねえぞ。関係ねえやつは引っ込んでろ!」
イルシアが八番の男に向かって吐き捨てる。
イルシアはすぐにでもライラと戦うつもりだったのだろうから、八番の男に邪魔をされたと怒っているらしい。
そもそも私はイルシア君と戦うつもりはないよ、とは声をかけられない雰囲気だ。
「ちょっとちょっとー。アンタはあくまで試験監督の一人だろう? そんな態度でいいのかねえ」
八番の男が下品に笑っている。
たしかに、八番の男の言う通りイルシアの態度は試験監督としてはいただけない。
しかし、この男の言動に腹が立つイルシアの気持ちもわかる。
許されるなら、今すぐにでも黙らせてしまいたい。