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第6話

 ライラは受験者たちが森の中に向かって行く様子を眺めながら、どうしたものかと考えていた。

 男のことは気になるが、とりあえず今は試験に集中するべきだ。


 この試験、制限時間や範囲からして、コインはとても分かりやすい所に置かれている。コイン自体は簡単に見つけられるはずだ。


 問題は、見つけたコインが自分の受験番号と同じ数字であるかどうかだ。

 最初に見つけたコインが自分の受験番号ならば運が良い。

 運の良さというのも、ひとつの才能だ。


 だが、見つけたコインが自分の受験番号と違う数字だったらどうするのか。

 諦めず自分のコインを探し続けるのか。見つけたコインを使って他の受験者と交渉するのか。

 あるいは、力ずくで相手の持つコインを奪いにいくのか。


 この試験はコインを入手してからの対応を問うものなのだろうとライラは結論を出した。

 いや、そもそもだ。

 まずはこの場に残り、見つけたコインが自分の受験番号ではなかった場合は素直に交換に応じるなど、受験者同士で協力関係を結べば済んだ話のような気がする。


「……たかだか冒険者の登録試験にしては随分と大がかりなことをするわねえ」


 受験者たちの向かった森の中を見つめてつぶやいた。

 以前はもっと誰でも合格できるような簡単な試験内容だったはずだ。これでは合格者が限られるだろう。

 全体数を減らしてでも質を上げたいのだろうか。

 この辺りの事情はイルシアやファルではなく、もっと組合の上の人間に聞かなければわからないか。


「おや、君らはコインを見つけに行かないのかな?」


 ライラが余計なことにまで考えを巡らせていると、先ほどの男が話しかけてきた。

 この場にはライラ以外に、受験番号八番の男が残っている。

 男の言葉にすぐに答えたのは、八番の受験者だった。


「自分でコインを探すのは手間ですからね。この場に残ってコインを提出する者から奪い取った方が楽ですよ」


 八番の男はけらけらと笑っている。

 話し合いをするために残ったのではないとわかりライラはがっかりする。

 戻ってきた受験者が自分の番号のコインを持っていなかったらどうするつもりなのだろうか。


「まあ、それも作戦の内だろうね。……それで、君の方もそのつもりなのかな?」


 男は目を細めて嫌味っぽく笑いながらライラに話しかけてきた


「…………私は森の中へコインを見つけに行く前に、確かめたいことがあるだけですわ」


 この男の視線はあまり好きになれない。ライラはどう答えたものかと一瞬だけ悩む。

 ライラは男に微笑みを向けながら、右手を伸ばしてイルシアのいる方角を指差す。


「イルシア君が持っているコインの番号を確かめたいのです」


 ライラの言葉に男の目が険しくなる。

 それと同時に、イルシアが身体に力を入れたのがわかった。


 ライラはファルに試験について相談していたときに聞かされたことを思い出す。

 冒険者の資格を失ってしまい、登録試験を再度受ける者には試験中に他の受験者よりも厳しい課題が与えられることがある、というものだ。


「なんとなく、イルシア君の持っているコインが十五番なのじゃないかなって、気がするのですが?」

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