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第3話

「次の方で最後ですね。十五番の方どうぞ!」


 ようやく受付嬢に受験番号を呼ばれた。

 試験三日前に申し込んだライラは、今回の受験者の中で一番最後だった。

 ライラは受験者たちの群れから一歩前に出て弓を手に取る。


「お、次はあのおばさんか」

「恥をかく前にさっさと帰んな!」

「ぎゃははははははは!」


 連中がわざとらしく大きな声で喚き出した。

 ライラは深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、ゆっくりと弓を構える。

 この二日で集中して鍛練したものの、それだけでは以前の状態まで戻せるわけがない。


 結婚している間はまったく弓に触れていなかった。

 以前に使用していた武器や防具は、結婚するときに人に譲ってしまった。

 婚姻前の生活を支えていた物を手放すことで、ライラなりに侯爵家に嫁ぐための覚悟を示したつもりだった。

 ミスリルの短剣だけを残していたのは、それが元夫からの贈り物だったからだ。

 こんなことになるなら全て取っておけばよかったと、ライラが感傷に浸っている間にも野次が飛んでくる。


「おいおいおい。そのほっそい腕で大丈夫なのか? ああ⁉」

「もっと的に近づいていいいんだぜえ!」


 ライラは五つの的の内、一番大きな的に狙いを定めていた。

 大きな的から小さな的に狙いを変えて攻撃をしていくのが順当だと思ったからだ。


 ライラは弦から手を離す直前で狙いを変えた。

 こんなところで騒いでいることしかできない連中が誰に向かって口を利いているのかと、ほんの少しだけ腹立たしくなってしまった。


 ライラが最初に放った矢は、一番小さな的のど真ん中を貫いた。

 すぐさま次の矢を番えて二番目に小さな的の真ん中に命中させる。

 次に二本の矢を同時に持って構えると、三番目と四番目の的にそれぞれ的中させてみせる。

 ライラは一瞬のうちに、四本の矢を的の中心に命中させた。


「っだ、だから何だってんだよ!」

「動かない的に当てるくらい、誰でもできるぜ」

「……ま、まあ、おばさんだしな。これくらいは年の功ってことだろ」


 ライラはこれで奴らが実力差に気が付いて大人しくなるかと思っていた。どうやらそれすら理解できない残念な連中だったらしい。


 ライラは一番大きな的を残して動きを止める。

 あんな連中の言うことを気にするなんて馬鹿らしいと、受験者たちに声をかけたばかりで行動を起こすことに一瞬だけためらう。

 ライラはただでさえ再試験なのだから心証がよくない。ここで悪目立ちするのは得策ではないというのはわかっている。


「……だとしても、格下認定されたままってのはいただけないわよねえ」


 とつぜん動きを止めてしまったライラに、演習場にいる者たちの困惑した雰囲気が伝わってくる。

 ライラは残された的に向かってゆっくりと近付いていく。

 手にしていた弓を背負うと、的の目の前で立ち止まった。


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