──冒険者登録試験の当日。
ライラは三日ぶりに冒険者組合へと足を運んだ。
この日の組合ロビーは、先日とは異なりぴりぴりとした空気が漂っている。
周囲を見渡してみると、こなれた雰囲気の冒険者たちの他に、いかにも試験の受験者といった初々しい姿の若者がいる。周囲に漂う緊張感は、その若者たちのものだった。
冒険者たちは彼らの心情を察して、刺激をしないように距離を取っている。しかし、それが余計に若者たちを強張らせてしまっているようだった。
「……んん? もしかして、今日の受験者の中で一番年齢が上なのは私なのかしら?」
ライラはロビーに集まる人々を眺めながら、そんなことに気が付いてしまった。
気を引き締めた面持ちでロビーに立っているのは、十代に見える若者がほとんどだ。二十代前半に見えなくもないといった者も二、三人ほどいるが、ライラに近い年齢の者は見当たらない。
ライラは、今回の試験に当たり前のように受かると思っている。
落ちる可能性なんてこれっぽっちも考えたことがないので、試験を受けるにあたって気持ちにずいぶんと余裕がある。
しかし、こんなにも初々しい若者に混ざって試験を受けなくてはならないことに気がついてしまったのだ。これで不合格になったらと、ライラの心の中にほんの少しだけ焦りの感情が顔をのぞかせる。
「……そりゃ少し腕が鈍っているけど、たかだか登録試験よ。こんなことで取り乱してどうするのよ私ってば」
ライラは焦りの感情を抑え込むために、ロビーの椅子に腰かけると胸に手を置いた。目を閉じて周りの様子は視界に入れず、これから受ける試験のことだけを考えるようにした。
そうして過ごしていると、しばらくしてロビーに大きな声が響き渡った。
「本日の冒険者登録試験の受験者は、演習場に集まってください!」
ライラがその声に目を開けると、ロビーの奥に先日の受付嬢が立っていた。彼女は身体全体を使って大きく手を振りながら、受験者たちをロビーの外に出るようにうながしている。
ライラは座っていた椅子から立ちあがると、受付嬢の誘導する方へゆっくりと歩き出した。
ライラが演習場にたどり着くと、そこにはすでに受験者らしい若者が十四名ほど集まっていた。皆が同じ場所にかたまって、緊張した面持ちで試験の開始を待っている。
「これで全員揃いましたね。それでは本日の試験を開始させて頂きます!」
ライラが受験者の群れに近付いて立ち止まると、それを待っていたかのように受付嬢が声を上げた。
どうやら集合場所にやってきた受験者はライラが最後だったらしい。
ライラが受付嬢に視線を向けると、彼女の背後にイルシアとファルの姿を見つけた。試験の監督役である二人は、ライラを見ながら苦笑している。そんな二人を見て、ライラは自分が粗相をしでかしたのかと驚く。
のんびりとしていたつもりはなかったが、周囲に合わせてもっと緊張感を出した方が良いのだろうかと悩んでしまう。
ライラはとりあえず顔を引き締めると受付嬢の話に耳を傾ける。
そんなライラの様子を見ていたファルが、慰めるようにこちらに向かって小さくガッツポーズをしてきた。
それはむしろ不安になるから止めてくれと、ライラは心の中でファルに抗議をした。