「どうだい。うちの姪っ子は可愛いだろう?」
トゥールとアヤが店を出て行ったあと、ルーディはライラの目の前に夕食を並べながら話しかけてきた。彼女は屈託のない笑顔で得意げに胸を張っている。
「……ええ、とっても可愛らしいお嬢さんだわ。トゥールさんったらデレデレなのね」
「あれだけ可愛いんだ。そりゃもう親族一同デレデレさね。兄さんは今から嫁に行く心配ばかりしているよ」
「…………親なら、誰だってそうよ。可愛い我が子だもの」
「だからさ、あんまりたぶらかさないでおくれよ。兄さんがうるさいから」
「だからね、私はそんなことをしていないってば!」
ライラがルーディにそう言い返したとき、団体の客が来店したので彼女はそちらに駆けつけていってしまった。
せわしなく動き回るルーディから視線を逸らし、ライラは目の前の食事に向き合った。
今日は久しぶりに充実した時間が過ごせたと思う。
イルシアやファルにたくさん話を聞いて頭を使ったし、新しい弓に慣れるために存分に身体を動かした。
ライラは、よしと小さな声を出して気合いを入れると、スプーンを手に取り食事を口を運んだ。
「…………今日は食べられそうな気がしたのだけれど、ね」
やはり味がしない。これではどう頑張っても食事が進まない。
ライラは目の前の料理をどう処理すべきかと困り果ててしまった。
ここで世話になっている間、朝食と夕食は宿代に含めてくれるとルーディは言ってくれた。
ライラは大人しく行為に甘えることにしたのだが、毎回残してしまうのであれば食事の世話になるのは考え直したほうがいいかもしれない。
「無理をすることはない」
いきなり目の前から声をかけられて、ライラは顔を上げた。厨房の中からこちらを見ているジークと視線があう。
「……あ、ありがとう。でも、これからは食事を作ってもらうのは……」
遠慮しようかと思うの、そう言おうとしてジークにぴしゃりとさえぎられてしまった。
「いいんだ」
ジークはそれだけ言うと、ライラがほとんど手を付けていない食事を下げてしまった。彼はその代わりに、ホットミルクの入ったカップをライラの目の前に置いた。
ライラは置かれたカップにそっと手を伸ばした。両手でゆっくりとカップを包み込む。
手のひらにほんのりとした熱が伝わってくる。口にするのに丁度よい温度だった。
「…………温かいなあ…………」
ライラはカップを両手で包み込んだまま、カウンタ―に肘をついてぐったりと項垂れた。