「……へえ。アンタって本当に腕が良いな」
しばらくの間、ライラが弓を引く姿を黙って見ていたイルシアが声をかけてきた。
「あら、どうもありがとう。でもね、しばらく弓には触れていなかったから、どうにも鈍っている感覚があるのよねえ」
そこまで言って、ライラはちらりとマディスを横目で見る。
「……はやめに感覚を取り戻すには、もう少し重くしたほうが鍛えられていいのかしら?」
「いや、無理に重くしても命中精度が下がるだけだ。二日後の試験を考えても、このままでしばらく慣らしたほうがいいだろう」
マディスは真面目な表情で淡々と答える。
先ほどまでのからかうような雰囲気はまったくない。そこにいるのは一人の職人だった。
「……ふむ、そうね。それじゃあ、しばらくはこのまま使ってみようかしら」
「そうしておけ。それと、こっちも受け取れ」
マディスがくいっと顎をしゃくる。すると、すぐさまファルがライラに近付いてきてナイフとホルスターを差し出してきた。
「わあ、ありがとう!」
ライラは目を輝かせてファルから差し出されたものを受け取り、すぐにその場で身に着けた。
近接戦闘用の短剣を物々交換で差し出してしまったので、代わりになるものが欲しいというライラの希望を聞いて、ファルが見繕ってくれたものだ。
「お前さ、本当にもう少し肉を付けろよ。華奢すぎて何でもかんでも詰めなきゃならなかったって? そんなんじゃ体力が持たねえだろう」
「……んー、努力はするわね」
ライラはマディスの言葉に対しておざなりに返事をしながら、身に着けたレッグホルスターからナイフを素早く取り出して的に向かって投げた。
「完璧! さすがファルちゃん」
「うわあ、すごい! また的の真ん中だ」
ファルが的の真ん中に刺さったナイフを見て興奮した声を上げる。
しかし、マディスの方は娘とは対照的に落ち着いた声色で話しかけてきた。
「…………今さらなんだが、お前は登録が抹消される前のランクは最終的に何だったんだ?」
「最終的にはミスリルだったけれど……。それは今さら関係のないことでしょう?」
ライラは何でもないことのように、あっけらかんとマディスの問いに答えた。