「本当だ、すごく軽い。しかも、なんだこれ……? すごく手に馴染むっていうか……」
イルシアは素早く剣を鞘から抜くと、感心したようにつぶやいている。
ライラはそんなイルシアの様子に目を見張る。
これならばマディスは短剣を引き取る気になるのではと思い、諦めずに売り込みをはじめた。
「軽いのは素材のおかげもあるのだけれど、手に馴染むのは短剣自体にそういう
イルシアとファルは、ライラの口から発せられた
食いついた、そう思ったライラは心の中でニヤリと笑った。
まじないがかけられている物品など、そうそう出会えるものではない。若い二人がそう聞いてもピンとこないのは容易に想像がつく。
ライラは、もっとこの短剣の話を聞きたいだろうと得意げに頷いてみせてから、売り込みを続けた。
「あのね、この柄の宝石部分に付与された魔法効果だけど、実はとても強力なうえにそこらじゃ滅多にお目にかかれない特殊なものなのよ」
ライラがそう言うと、ファルはイルシアが手にしている短剣に顔を近づけた。
「この宝石ですよね? んー、やっぱり私にはよくわからないなあ」
「気が付かないのは無理もないわ。この短剣には、魔法付与がされていることを隠蔽する力が働いているの」
ファルがぽかんとした顔をして首を傾げた。
イルシアは軽く短剣を振るいながら、ファルの気持ちを代弁するようにライラに向かって疑問をぶつけてくる。
「隠蔽ってさ、そんなことをする意味があるのか?」
「付与された魔法効果が強力だからよ。魔力とか気の流れに敏感な方だと気配を察知してしまうの」
「……ああ、なるほどな。せっかく自分の気配を消して獲物に近付いても、剣の魔力を感知されたら意味ないもんな」
「そういうことです。それと、万が一の事故を防ぐためという意味合いもあるわね」
このライラの答えに、今度はイルシアがぽかんとした顔をして首を傾げた。ライラはまた質問をされてしまう前に、疑問の答えを話してしまう。
「付与された魔法に見合うだけの強さが持ち主になければ、魔法の効果は発動しないのよ。魔法が付与されていると気がつけもしないわ」
イルシアはライラの話に耳を傾けながら、手にしていた短剣を鞘にしまい、物珍しそうに眺めているファルに手渡した。
「この短剣に触れて、軽い、馴染むと感じる方でなければ正しく扱えないように調整されているの。もし素人が強力な魔法を発動させてしまったら、本人も周りも困ったことになるでしょう?」
ライラがそう説明を終えたとき、短剣を手にしたファルがその重さに身体のバランスを崩した。
すると、マディスは顔を赤くして身体を震わせはじめる。