近くに人の気配を感じて、ライラは目を覚ました。
そのまま素早く起き上がると、そばにいた人物を自分が寝ていたベッドに勢いよく押し倒す。
服の中に忍ばせてあった短剣を取り出すと、ベッドに押さえつけた人物の上に馬乗りになって喉元に刀身を突き付けた。
「──っひいいいい! な、なによおおおお⁉」
ライラの耳に女性のか細い叫び声が聞こえた。
ライラは、はっとして目の前の人物をまじまじと見つめた。
「……………………ルーディ、さん?」
「──っそ、そうよ! あなたに危害を加えるつもりはこれっぽっちもないから! そ、その物騒なものを早くしまってよおおおお」
ルーディは怯えた視線でライラを見つめながら、冷汗をかいて固まってしまっている。
ライラはここでようやく自分がどこにいるのかを思い出した。慌てて短剣を鞘にしまうと、さっとベッドから飛び降りる。
「──ご、ごめんなさい! ……驚かせてしまって、申し訳ないわ」
ライラはルーディに詫びながら自分の胸に手を当てて、気持ちを落ち着けようと努める。
ルーディはライラが自分から離れても、身体に力が入らないらしい。ぐったりと手足を伸ばしてベッドに横たわったままだった。
「いやいや、こっちも勝手に入っちゃったのが悪いのさ。声をかけても返事がないから、どうしたのかと思ってね」
「そ、そんなことはないわ。ここはルーディさんのお家なのだから、自由に出入りするのは当たり前です」
「何を言っているのさ。もうこの部屋はアンタに貸すって決めたのだし、勝手に入っちゃダメでしょ」
ライラが横たわったままのルーディに手を伸ばすと、彼女はためらわずにその手をとって勢いよく上半身を起こした。
「──よいっと! まあ、気を取りなおしてさ。それじゃあ行こうか!」
「……へ? あの、行こうってどこへ行くのですか」
ルーディがベッドから降りて立ち上がったので、ライラは彼女から手を離そうとした。
しかし、ルーディはライラの手を離してはくれず、自分の方へと強く引いた。
「客も引いたし、お話をしようと思ってさ。うちの旦那がおいしいお茶を用意しているから、一緒に頂きましょうよ」
ルーディが幸せそうに笑う。そんな風に笑われたら逆らえない。
ライラはまたしても流されるまま、大人しくルーディに手を引かれて一階の食堂に向かった。