しかしながら、いくら妻であるライラが愛人の存在を気に留めていなくとも、使用人たちにとってはそうはいかないらしい。
使用人たちは、常にライラと愛人が屋敷内で鉢合わせしないように気を張ってくれているのだ。
余計な仕事をさせてしまっている自覚はある。使用人たちには、そんなことをしてくれなくても良いと伝えたことはあるが、いつまで経っても改善されないので諦めてしまった。
今ライラの目の前にいる美しい女は、ここ一年ほど屋敷の離れに滞在している。
これほどの期間を、クロードが同じ女を離れに住まわせているのは初めてのことだった。
深く考えるまでもなく、クロードがこの女に本気で入れあげているのは誰の目からみても明らかだった。
目の前にいる美しい女性は、本妻であるライラの立場を脅かすには十分すぎる存在なのである。使用人からすれば、ライラを気遣わないわけにはいかないということは十分に理解していた。
「何事じゃないわ! 澄ました顔をして、本当に可愛げのないお方ですこと。お育ちが悪いと取り繕うのに必死なのねえ。まあまあ、なんてお可哀そうなのかしら」
ライラの落ち着いた態度に、女は腹を立てているようだ。
次々にライラを蔑む言葉が女の口から吐き出される。あまりの罵詈雑言に育ちが悪いのはどちらだと言いたくなるが、けして口には出さない。育ちの悪さを競うならば、ライラに軍配が上がるのはわかりきっているからだ。
女の発言に、何一つ間違いはないのだ。
今までクロードが連れ込んだ女性たちにも、さんざん同じ言葉をかけられてきた。
だからこそ、こういった時にどういう態度を取るのが正解なのか、ライラにはよくわからない。
夫が愛人を囲っていることを悲しめばいいのだろうか。
しかし、育ちの悪い自分にクロードが満足できていないと言われてしまえばそうだと思う。
ならば怒ればいいのだろうか。
しかし、私以外の女に触れないでと泣き叫びながらクロードに縋りつく自分の姿など想像がつかない。
こんなことをぼんやりと考え込んでいると、目の前の女が下賤な女にはクロードの傍にいる資格がないと怒鳴りつけてきた。
そう言われると、やはりそうだとしか思えない。
ライラは、ますますどうしてよいのかわからなくなってしまった。
女はまだまだライラを口汚く罵ってくる。
どのように目の前の若く美しい女性に応対すればいいのか、ライラはいつまでも答えが導き出せないでいた。
使用人たちが女とライラを交互に見ながら困惑している。しかし、困っているのはライラも同じだ。
ライラには女がどれだけ口汚く自身を罵ってこようと、使用人がどれだけこちらを気遣ってくれようとも、どうすることもできない。
ライラは若く美しい女の言葉を、ただ黙ってぼんやりと聞いていた。