隔てられた友情
「ハタハタが……ハタハタが危ないっ!」
シイナは激しく憔悴し、青龍の逃げた海へと単身飛び込もうとする。
アラシが慌ててシイナの肩を掴み、彼女を制止した。
「落ち着け! お前は守護者だろ!」
その言葉で、シイナは我に帰る。
そしてセイたちの元に向き直り、縮こまって頭を下げた。
「……ごめん」
「とにかく、一度体勢を立て直そう」
「分かった。みんな、あたしの家に来て」
セイたち四人は荷物を纏め、シイナの家へと向かう。
赤い煉瓦で作られた派手な家の厨房を借りて、セイはシイナに温かいハーブティーを淹れた。
「お師匠のやり方で作った。気分が安らぐぞ」
「ありがとう、貰うね」
濃く煮出されたハーブティーの苦味を舌の奥に感じながら、シイナは弱々しく微笑む。
外から吹き込む風は冷たく、脅威がまだ去っていないことを克明に知らしめていた。
「とにかく、一度お互いの情報を整理しよう」
セイは単刀直入に切り出し、シイナに自分たちの目的とアラシがいる理由を明かす。
今度はミカが質問した。
「ハタハタって?」
「ドトランティスの守護者で、あたしの友達。今はちょっとギクシャクしてるけど……」
「何でギクシャクしてんだよ?」
「前に守護者会議があったでしょ。あなたがクーロンで乗り込んで来たやつ」
歌姫ミカの処遇を決める守護者会議で、シイナとハタハタは真逆の意見を掲げた。
その対立が二人の友情を妨げているのだと、シイナは悔しげに語った。
「例え考え方が違っても、あたしたちはずっと仲良しなんだって思ってた。でも、最近は連絡もつかなくて……!」
「そんな状態で災獣がドトランティスの方に逃げたんじゃ、不安にもなるか」
気遣うようなセイの言葉に、シイナはこくりと頷く。
彼女は立ち上がり、セイたちに向かって頭を下げた。
「お願い、一緒にドトランティスに行って! ハタハタを助けて!」
セイはミカとアラシと目線を交わし、それぞれの意思を確かめる。
彼らの答えは一つだった。
「ああ、勿論だ!」
「ありがとう! あたし、頑張るね!!」
シイナは満面の笑みを浮かべ、セイの手を掴んでぶんぶんと上下に振り回す。
そして元気を奮い立たせ、勢いよく家を飛び出した。
「それじゃあレッツゴー!!」
「よっしゃあ!!」
アラシも後に続き、シイナの家は急速に静まり返る。
家を出ようとしたセイの右手を、ミカが不意に掴んだ。
痕を刻むように握り込んだと思えば、突然離して歩き去ってしまう。
痛みの残る右手を摩りながら、セイは三人の後を追いかけた。
「時々分かんないんだよなぁ、歌姫さん……」
四人は潜水艦に乗り込み、深海の国ドトランティスに向かう。
その中央に位置する宮殿では、守護者のハタハタが一人、自室の真珠貝を模した寝具に横たわっていた。
「はぁ……」
ハタハタは物憂げに溜め息を吐き、天井をぼうっと眺める。
海月型の照明器具が、漫然と薄青く揺らめいた。
眠ろうとすればするほど首をもたげてくる心配事に、ハタハタの目は冴えていく。
無理やり
「失礼します」
初老の執事が扉を開けて、ハタハタの部屋に入ってくる。
彼は軽く頭を下げると、単刀直入に要件を伝えた。
「お客様がお見えです」
「お客様?」
「ええ。シイナ様と巨神、歌姫。それにボブという仮面の男です。ハタハタ様に、災獣討伐への協力を求めています」
「……災獣」
敵同士の筈の自分にまで頼るとは、それだけ切羽詰まっているのか。
シイナとは関わりたくないが、野放しにしてドトランティスが被害を受けても困る。
ハタハタは暫く考えた末、折衷案を提示した。
「クリオ。この件は貴方に一任しますわ」
「はっ。では、失礼します」
執事クリオは再び頭を下げて、ハタハタの部屋を後にする。
そして翌朝、彼はセイたち四人を宮殿の食堂に呼び出した。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたかな?」
「ああ。あんなにいいベッドで寝たのは久しぶりだよ」
「それはよかったです」
セイの賞賛を、クリオは素直に受け止める。
彼は徐ろに立ち上がると、上品な所作で自己紹介をした。
「改めまして私、ハタハタ様の側近のクリオと申します。以後お見知り置きを」
「俺はセイ」
「わたしはミカ」
「あたしはシイナ!」
「アラシだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
五人が自己紹介を済ませると、メイドが人数分の朝食を運んでくる。
新鮮な刺身の乗った炊き立ての白米を見て、アラシが言った。
「海鮮丼か! 朝から豪勢だなァ!」
「でもいいの? ドトランティスって、人と魚が一緒に暮らしてる国なんでしょ?」
メイドの背中についたヒレを見て、ミカが言う。
クリオが穏やかな口調で答えた。
「心配は要りません。刺身になることは、我ら魚にとって至上の名誉ですから。……それでは早速、皆さんが交戦したという災獣についてお聞かせ願えますか?」
「おう。あいつはこれまでにない強敵だったが、最後はオレのパンチで粉々に」
「しゃしゃんなバカアラシ! えっと、まず奴の能力は……」
セイは記憶を掘り返しながら、敵の能力や戦った状況を詳細に語り聞かせる。
殆ど全てをメモに記して、クリオが礼を言った。
「詳しいお話、どうもありがとうございます。これで対策を練ることができます」
「おう。ところでさ、何でハタハタは俺たちに顔を見せないんだ?」
災獣の出現は国家の一大事であり、その対策会議に守護者が顔を見せないというのは些か不自然である。
クリオがセイの疑問に答えた。
「ハタハタ様は、歌姫ミカ様の処遇でシイナ様と対立しておられます。そのため、皆様に顔を見せたくないのです」
「そんな……」
クリオの話を聞いて、シイナの目から明るさが消える。
勢いよく椅子から立ち上がった彼女を、クリオが呼び止めた。
「あたし、ハタハタ探してくる!」
「お待ち下さい! ……私自身、何度もハタハタ様を説得しました。しかしハタハタ様自身が考えを改めないことには、どうしようもありません」
ずっとハタハタに仕えてきた者の言葉には、シイナも反論できない。
彼女が席に戻ると、セイとミカ、アラシは両手を合わせて頼み込んだ。
「そこを何とか頼むよ。あの災獣を倒すためには、どうしてもハタハタの力が必要だ」
「わたしからもお願い」
「頼む!」
三人の真剣な態度に、クリオは大きな溜め息を吐く。
彼は懐から桃色の割引券を取り出すと、セイたちに一枚ずつ手渡した。
「ハタハタ様は甘い物がお好きです。少し先のスイーツショップに行けば、『偶然』ハタハタ様に出会えるかもしれませんよ」
「オッケー。『偶然』だな」
「ありがとう、執事さん」
「あたしも行く!」
「シイナ様はまだ駄目です。まずはハタハタ様の心を解きほぐさなくては」
「はーい……」
落胆するシイナの皿に、アラシが自分の刺身を一切れ置く。
セイとミカは自分の朝食を平らげると、ハタハタのいる店に向かった。
クリオも通常業務に戻り、食堂にはアラシとシイナの二人だけが残される。
器の刺身に気づいたシイナが、瞳を輝かせて言った。
「……もしかして、くれるの?」
「おう」
「ありがとう!」
刺身の一切れで元気を取り戻したシイナに呆れながら、アラシも朝食に手をつける。
すっかり冷めた緑茶を飲み干して、アラシが口を開いた。
「……お前、守護者としてどんな国を作りたい? お前が思う力って何だ?」
シイナは悩める守護者同士、ある種の共感覚に襲われる。
彼女は自然体を崩さず、正直な答えを告げた。
「笑顔かな。みんなを笑顔にするために、まずは自分が笑顔になるの。そしたらみんなが集まって、大きな笑顔の輪ができる。それが、あたしの目指すファイオーシャン!」
シイナの言葉を、アラシは神妙な態度で心に刻む。
かつては単なる楽天家に見えていたシイナにもしっかりと矜持があることを知り、彼は深く頭を下げた。
「……ありがとな。勉強になった」
「ならよかった! 執事さん、ご馳走様でしたっ!」
立ち上がるシイナの後に続いて、アラシは食堂を後にする。
同じ頃、スイーツショップ近くの広場では。
「ついに買えましたわ! 期間限定メガ盛りトロピカルパフェ! ファイオーシャンの太陽を浴びて育った果実と一流シェフの腕前が出逢い
「よっ」
「ウギャアアアーッ!!?」
セイに背後から声をかけられ、高貴な装いの女性は気品もへったくれもない悲鳴を上げて椅子から転げ落ちる。
彼女の服に守護者を示すバッジがついているのを見つけて、ミカが言った。
「セイ、この人」
「ああ。あんたが守護者のハタハタだな」
セイはハタハタを助け起こして尋ねる。
ダンマリを決め込む彼女に、今度はミカが話しかけた。
「スイーツ、好きなんだね」
「だ、誰がそんな軟派な食べ物! ……ちなみに何処から聞いてましたの?」
「『ついに買えましたわ!』の辺りから」
「……大好きですわ」
もはや誤魔化せないと悟り、ハタハタはがっくりと肩を落とす。
彼女はぬるりと顔を上げると、眉を吊り上げて質問した。
「で、何の用ですの?」
「もうすぐこの国に災獣が来る。そいつを倒すために、あんたに協力してほしいんだ」
「その件はクリオに一任した筈ですわ」
「そのクリオが、こいつをくれたんだよ」
セイたちの割引券を見て、ハタハタは自分がクリオに図られたことを悟る。
彼女は特大の溜め息を吐くと、ミカを睨みつけながら言った。
「……そこのソウルニエ人を殺すと約束すれば、すぐにでも全面協力致しますわ」
「そんなに歌姫さんが憎いのかよ。何かされたわけでもないのに」
「個人の人間性など関係ありませんわ! ソウルニエ人は処刑、それがこの世界に千年続くルールですわ!」
ハタハタは厳格な審判者というより、頑固な子供のような態度で断言する。
彼女の牙城を切り崩すべく、セイは低い声で問いかけた。
「……ルールと国、どっちが大事だ」
ミカを殺して災獣の侵入を許すか、処刑を取り消して共闘するか。
悩むハタハタの脳裏に、シイナの言葉が過ぎった。
『迷ったら楽しい方! トロピカな方に行こうよ!』
「シイナっ!!」
ハタハタはテーブルを叩いて叫ぶが、そこにシイナはいない。
はっとしてセイたちを見ると、二人は驚愕に目を丸くしていた。
「ち、違いますわ! これはっ」
ハタハタは慌てて弁明しようとするが、もう遅い。
セイたちは誤解を抱いたまま、しみじみと頷いた。
「そうきたかぁ……」
「ハタハタは友達思いなんだね」
「シイナなんか友達でも何でもありませんわ! ただおバカで危なっかしいから側にいないと心配なだけで」
「やっぱり友達思いだ」
ミカは嬉しそうに笑う。
ハタハタは大きな溜め息を吐くと、最後の気力で姿勢を正した。
「……処刑はひとまず保留にしますわ。戦えないわたくしの分まで、どうかこの国を守って下さいまし」
「おう、任せろ」
ハタハタはゆっくりと立ち上がり、パフェを持ったまま覚束ない足取りで宮殿へと帰っていく。
街を歩いていたアラシとシイナが、彼女と入れ替わるように現れた。
「その様子だと、説得には失敗したみたいだな」
「でも彼女はまだ、シイナとの友情を捨てちゃいなかった」
セイの言葉に、ミカも頷く。
安堵するシイナを、セイは力強く励ました。
「クリオとも協力して、必ず話し合いの機会を作る。きっと仲直りできるさ」
「うん! 二人とも、本当にありがとう!」
「気にすんな。……絶対、あの災獣を倒そう」
ハタハタのために。みんなのために。
セイたちは互いの掌を重ね合い、改めて結束を確かめ合う。
そして四人は作戦会議がてら、店のスイーツを楽しむのだった。
–––
水底の乙女たち
「災獣が出たぞぉ!!」
ドトランティス全土に、危険度最大を示す警報が鳴り響く。
体力を回復した青龍が、ついに活動を再開したのだ。
国を包む防護結界を破壊せんと、青龍は強靭な尻尾を叩きつける。
迎撃に出た兵士たちの怒号を聞きながら、アラシとシイナは避難誘導を開始した。
「こっちだ!」
「早く逃げて!」
やがて避難は完了し、青龍討伐作戦は第二段階に移行する。
兵士たちが迎撃を止めて散開し、殿に控えていたセイに道を開けた。
「今です!」
「おう!」
セイは勾玉を構えて走り出し、全身に風雷の力を漲らせる。
光に包まれたセイの体が、防護結界を擦り抜けた。
「超動!!」
セイ––巨神カムイは濃紺の深海に飛び出し、青龍と真正面から激突する。
ハタハタは戦いの始まりを確認すると、ミカにハート型の装置を手渡した。
「ドトランティスに代々伝わる秘宝です。歌の力を高める効果がありますわ」
「ありがとう。正門側は人が多いから、裏の通路から出て」
「分かりましたわ」
ミカは装置を起動し、雷の歌を歌い始める。
セイたちの勝利を祈りながら、ハタハタは急いで部屋を出た。
自らも避難し、国民たちを鼓舞しなければならない。
しかし駆け出そうとした彼女は、思わぬ人物に遭遇して足を止めた。
「シイナ……!?」
「待って!」
逃げようとするハタハタの手首を、シイナが掴む。
真っ直ぐな瑠璃色の瞳が、振り向いたハタハタを射抜いた。
「ちゃんと話そう」
長い渡り廊下の中心で、二人の守護者が相対する。
ハタハタは静かに息をして、変わらぬ主張をぶつけた。
「……わたくしは守護者として、ソウルニエ人ミカを処刑しますわ。この世界を守るために」
「でもあの子は何もしてないよ! むしろ歌姫として、必死に災獣と戦ってる! ハタハタだって分かってるでしょ!?」
「……っ」
根拠のないしきたりを理由に人を殺す行為がどれだけ愚かしいか、それに気づかないほどハタハタは愚かではない。
だが未知への恐怖が、彼女を排除論に縛りつけていた。
「……関係ありませんわ。わたくしの行動には、一点の曇りも」
「だったら何で、そんな辛そうな顔してるの?」
はっとしたハタハタの姿が、壁掛けの鏡に映る。
やつれ青褪めた顔の彼女に、シイナは穏やかに語りかけた。
「あたし、ハタハタにも笑顔でいてほしいよ」
「……笑顔なんて」
「例えあの子が本当に脅威だったとしてもさ、その時はみんなで立ち向かえばいいじゃん。だから今は、信じてみない?」
血を吐く思いで作り上げた拒絶の壁が、少しずつ崩れ去っていく。
ハタハタはそっと手を伸ばし、シイナの掌を掴んだ。
「……一人で食べたパフェは、全然美味しくありませんでしたわ」
「えっ?」
「あなたの笑顔って、こんなに眩しいものでしたのね」
ハタハタの心から刺々しいものが消え、胸につかえていた膿が涙となって溢れ出す。
シイナは何も言わず、ただ彼女の言葉に耳を傾けた。
「わたくし、信じますわ。あなたを……あなたが信じるミカを。だってわたくしは、あなたの」
ハタハタは涙を拭うことさえ忘れ、両腕いっぱいにシイナを抱きしめる。
抱き返してくるシイナの温もりを感じながら、彼女は心からの言葉を告げた。
「お友達だから……!!」
その瞬間、シイナたちのバッジが輝き始める。
二人は互いに頷き合うと、ミカの部屋に駆け込んだ。
「シイナ、ハタハタ……うっ」
ハタハタは倒れ込むミカを抱き止め、部屋のベッドに座らせる。
咳き込むミカの背を摩りながら、シイナが心配そうに言った。
「ミカ、大丈夫!?」
「平気。でも、それよりセイが」
カムイが追い込まれていることを、ミカは歌姫としての能力で感知している。
彼女は毅然と立ち上がると、再び歌い始めた。
しかし掠れた声では歌の力を引き出せず、悪戯に喉を傷つけるばかりである。
苦しむミカの肩に手を添えて、シイナが親指を立ててみせた。
「あたしたちも手伝うよ!」
「三人の声を合わせれば、より強い力になる筈ですわ!」
「……ありがとう」
三人は深く息をして、増幅装置に手を添える。
そしてカムイを救うべく、清らかな歌声を響かせた。
か細いミカの声を追いかけるようにシイナとハタハタが歌い出し、ミカを追い越して主旋律となる。
活発さと気品の調和したメロディが、カムイに再び活力をもたらした。
「これは……!」
風雷双刃刀が蒼く輝き、荒波のようなオーラを纏う。
双刃刀を構えるカムイに、青龍が咆哮を轟かせた。
「これでも喰らえ!!」
カムイは双刃刀から超巨大ココナッツを放ち、青龍の大口に噛ませてブレスを封じる。
青龍との激戦に終止符を打つべく、カムイは必殺技を発動した。
「神威一刀・常夏深海斬り!!」
怒涛の連続斬撃を受け、青龍の体は海底の藻屑となって沈んでいく。
そしてカムイ––セイは光の粒子となり、ドトランティスに帰還した。
「やったな、セイ!」
待っていたアラシとグータッチを交わし、ミカたちの待つ宮殿に戻る。
満身創痍の三人に、セイは真っ直ぐな感謝を告げた。
「ありがとう。みんなの声、ちゃんと届いた」
ミカはゆっくりと頷く。
ハタハタはセイたちの方を向くと、彼らに頭を下げて謝罪した。
「巨神カムイ、そして歌姫ミカに対するこれまでの非礼、深くお詫び申し上げます。今後は守護者として、国を挙げてお二人を支援致しますわ」
「おう、よろしく!」
セイはハタハタを笑って許し、彼女と固い握手を交わす。
二人を見守るシイナの目を見て、アラシがニヤリとして言った。
「その様子だと、仲直りもできたみたいだな」
「うん! ハタハタ大好き!」
「わたくしも大好きですわ、シイナ」
「……ごゆっくり〜」
二人だけの世界で戯れるシイナたちに苦笑しながら、セイたち一行は客室に戻る。
セイが荷物を纏めていると、アラシが話しかけてきた。
「あの災獣、宝玉持ってたか?」
「いや、持ってたっちゃ持ってたんだけど」
そう言ってセイが取り出した宝玉は青色で、アラシの探している赤い宝玉とは似ても似つかない。
目力で赤くならないかと宝玉を凝視するアラシに、セイが言った。
「それやるよ。もしかしたら、赤い宝玉の手掛かりになるかもしれないだろ」
「マジか、ありがとな!」
「アラシ、一緒にパフェ食べよー!!」
「ドカ食いあそばせ〜!」
シイナとハタハタが駆けてきて、アラシに声をかける。
アラシは宝玉を懐に仕舞うと、立ち上がって呟いた。
「首脳会談ならしょうがねえな! つーわけで行ってくるぜ!」
去り際、シイナはミカに向けて『頑張って』とハンドサインを送る。
そこで初めて、ミカはこれが彼女の作戦であることに気がついた。
自分とセイを二人きりにさせるための。
「……セイ」
仲間がくれた好機を逃すまいと、ミカは意を決して口を開く。
セイの目をしっかりと見据えて、彼女は正直な感情をぶつけた。
「わたし、セイがアラシやシイナと仲良くしてるのを見てやきもち焼いた。……言ったって仕方ないのは分かってるけど、まだ気持ちに整理はついてない」
「……うん」
「だからね。たまには今までみたいに、二人っきり、で……」
溜まっていた物を吐き出した途端、ミカの中で堰き止められていた疲労が一気に押し寄せる。
セイが倒れ込んだミカを抱き留めると、彼女はセイの腕の中で静かに寝息を立てた。
「お疲れさん」
セイはミカをベッドに運び、肩が隠れるまで毛布をかける。
平和を取り戻した海の底で、二人は穏やかな時間を過ごすのだった。