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第7話 勇者キラレオナルドと偽りの森

 魔王を倒すため旅をする勇者一行は『偽りの森』と呼ばれる場所へ足を踏み入れた。



勇者「ふーここらで一休みするか」


魔法使い「そうね。もう数時間歩きっぱなしですもの」


騎士「この老ぼれの体にはこたえますぞ」


勇者「あ、そうだみんな。ここの森は人に化けるモンスターが出るらしいから気をつけろよ」


魔法使い「人に化ける?」


勇者「そう。冒険者パーティの一人になりすまして油断したところを攻撃してきたりするらしい」


騎士「なるほど」


勇者「まあそうは言っても俺たちは3人だしはぐれなければ問題ないだろ」


魔法使い「まあこれだけ一緒に旅してきた私たちがモンスターのモノマネに騙されるわけないわ」


勇者「モノマネって言うなよ」



  『ザサッ』



騎士「勇者殿……あの茂みのところ……」


勇者「あぁ、お前ら戦闘準備だ」


魔法使い「くるわ!」



『魔物が現れた!』



偽勇者「ケケケケケー!!!オイラが勇者でゲスぜえええ!」


勇者「おい騙す気あんのかこいつ」


魔法使い「……どっちが勇者かしら」


勇者「嘘だろ」


騎士「ハハハっ、そんな茂みから現れて勇者殿は相変わらずひょうきんですなあ」


勇者「あそこまでひょうきんじゃねえよ」


偽勇者「オイラが本物の勇者でゲスよおお!」


魔法使い「じゃああいつが本物かしら」


騎士「自分で言ってるからそうでしょうな」


勇者「なんでだよ。まず語尾から変だろ」


偽勇者「みんな騙されちゃダメでやんす!!こいつの方が嘘つきでザマスよ!!」


勇者「語尾を探るな」


魔法使い「いよいよどっちが本物かわからないわね」


騎士「各々になにか自己アピールをしてもらわねば」


勇者「お前ら絶対遊んでんだろ」




魔法使い「あなた、本物の勇者なら私の名前を当ててみなさいよ」


勇者「……フランだろ?」


魔法使い「フルネームで」


勇者「えぇと……フラン=ミハエル=アプリコット=イルミナント=スペクタクル=トラディショナルだっけ」


魔法使い「ハズレよ。正解はフラン=ミハエル=アプリコット=イルミナント=スペクタクル=トラディショナルJr.よ」


勇者「お前名前なげーよ。ていうか俺結構いい線いってたじゃねえかすげえな俺」


騎士「怪しいですなあ‥‥」


魔法使い「仲間のフルネームくらいは仲間なら言えて当然のはずよ」


勇者「ほぼ当たってたろ」


騎士「では偽勇者!ワシの名前を言ってみなされ」


勇者「もう偽勇者って呼んじゃってんじゃねえか」


偽勇者「ヒヒヒー!貴様の名前でゲスかー?」


騎士「そう、このアルコ=ルソーの名を言ってみなされ!!」


偽勇者「アルコ=ルソーでゲスねー!!」


騎士「正解ですぞ」


魔法使い「さすが偽勇者ね」


勇者「勝たせにいくな」



騎士「今のところ偽勇者の方が本物の勇者ですな」


勇者「わけわかんねえこと言うな」


魔法使い「四馬身差でリードってところね」


勇者「結構離されてんな」


騎士「このままだとラチがあかないですぞ……三番勝負で白黒つけてみては」


勇者「一発勝負でいいだろ」


魔法使い「まずは熱湯風呂対決ね」


勇者「バラエティにするな」


騎士「勇者とは忍耐力の証。本物の勇者であれば当然熱湯風呂へのリアクションは弁えておられる」


勇者「お前ら勇者をなんだと思ってんだ」


偽勇者「オイラはやってやるでゲスよ!!熱湯風呂でも熱々おでんでもどんとこいでゲス!!」


勇者「おいやめろ若手か」


魔法使い「いい心がけね、偽勇者に10ポイントよ」


騎士「さすが勇者は体張ってナンボ。ワシからも20パレスですぞ」


勇者「単位統一しろよお前ら」


………………。



魔法使い「さあ続いて二回戦。殺し合いよ」


勇者「一転シンプルすぎるだろ」


騎士「勇者とは強さの証明。己の行く手を阻む者は女子供であろうと是非も言わせず切り殺すのが勇者ですぞ」


勇者「だから勇者をなんだと思ってんだ」


騎士「おや?勇者殿、もしやその伝説の勇者の剣を使うつもりですかな?」


勇者「悪いかよ」


騎士「その勇者しか装備できないと言われている勇者の剣は攻撃力が高すぎて勇者殿の真の強さがわからないではないか」


魔法使い「勇者の剣使うとは勇者にあるまじき卑怯さね。恥を知りなさい。マイナス10ポイント」


勇者「自分で言ってておかしいと思わねえのかお前ら」


偽勇者「ヒヒヒヒヒヒ!オイラはこのバタフライナイフだけで十分でゲスよ」ペロッ


騎士「さすがいい心がけですぞ偽勇者。50ムニル追加」


勇者「バタフライナイフの刃をペロってする勇者どこにいんだよ」


魔法使い「はいよーいドン」


勇者「殺し合いの合図が軽い」


偽勇者「ぶっ殺してやるでゲスよー!」


勇者「ったく……しょうがねえな。よいしょっ」ズドン


偽勇者「グフっ……やられた……死にそうでゲス」


魔法使い「初対面の相手に腹パンかまして瀕死に追い込む勇者なんているかしら」


勇者「こいつ初対面なのにバタフライナイフで斬りかかってきたんだぞ」


騎士「偽勇者かわいそう。勇者殿にマイナス100マイズですぞ」


勇者「さっきからお前の独特の単位なんなんだよ」


偽勇者「次の勝負は負けないでゲスよ!」


勇者「お前瀕死じゃなかったのかよ」


……………。



魔法使い「最後はヤギのミルク早飲み対決よ」


勇者「またバラエティ路線に戻したな」


騎士「勇者とはヤギの証明。よく乳飲むヤギが勇者と言えますぞ」


勇者「もうそれヤギだろ」


騎士「現在の集計は勇者8652ポイント、偽勇者8692ポイントとなっていますぞ」


勇者「めっちゃハイレベルな戦いしてんな」


魔法使い「なんと今回の戦いで勝った方にはボーナスとして20ポイント加算されるわ」


勇者「こんな接戦なのに負け確じゃねえか」



………………。



魔法使い「今宵、運命の秒針が貴方達を分かつ時。下弦の月は真紅の誘いに散る……さあ戦いなさい己の宿命と生命を賭けて!愚かな夢見人たちよ!!」


騎士「魔法使いの掛け声とともに今、両雄の雌雄を決する戦いの火蓋が切って落とされました!!ですぞ!!」


勇者「壮大すぎるだろヤギのミルク早飲み」


偽勇者「うおおおおおおでゲスううう」


騎士「スタートダッシュを切ったのは偽勇者!偽勇者速い!偽物とは思えない速さだ!ですぞ!!」


勇者「やべッ飲まなきゃ」


騎士「勇者殿は少し出遅れたか、このまま先頭の偽勇者逃げ切れるでしょうか!実に熱い戦いが繰り広げられていますがいかがですか魔法使いさん」


魔法使い「こいつらなにやってんのかしら」


騎士「ワシが言うのもなんですがアンタ酷いですな」


偽勇者「げほおおおおおおおでゲスう!!!」


勇者「!?」


騎士「あーとここで偽勇者吐血!!吐血ですぞ!!」


魔法使い「ふ……かかったようね」


勇者「おいこれは一体どう言うことだ」


魔法使い「この国に古くからある言い伝えよ。勇者も聞いたことくらいあるでしょ?そう……『偽りの森のモンスターは勇者のモノマネをしながらヤギのミルクをイッキすると吐血する。あと死ぬ』というあの伝説を」


勇者「知らん」


偽勇者「迂闊だったでゲス……はっ!まさか全てはこのための伏線だったでゲスか!?」


魔法使い「ようやく気づいたのね偽物さん。そう、あの熱湯風呂対決も殺し合いも貴方を欺くためよ!」


勇者(え………要らなくない?最初っからミルクイッキでよくない?)


騎士(まあそれ言ったら熱湯風呂対決もやってないですし)


偽勇者「くっそー勇者パーティめ!!だが覚えておくといい!!例えこの私が滅んでも第二第三の勇者が現れて貴様らを滅ぼすであろう!!フハハハハ!!」


勇者「その捨て台詞なんかちょっと違くないか」



『ダークシャドウは滅んだ』



勇者「あいつ名前かっこいいな」


騎士「なんか死の間際だけ魔王みたいな口調でしたな」


魔法使い「まさかあんなんで死ぬとは思わなかったわ」


勇者「それはお前のせいだけどな」


魔法使い「言ってみただけだったのに」


勇者「ノリ良かったからなあいつ」


騎士「しかしとりあえずこれで解決ですぞ!」


魔法使い「ふ……私たちのパーティの結束力の勝利というところね」


勇者「ところでお前らさ」


魔法使い「なにかしら?」


勇者「俺のフルネームちゃんと覚えてる?」


魔法使い「えぇ…………も、もちろんよねアルコ?」


騎士「もちろんですぞ!」


勇者「仲間なら言えて当然だよな」


騎士「き……」


勇者「き?」


騎士「きしめん大名……ですかな?」


勇者「誰だよ」

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