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第4話 魔王の憂鬱〜最終決戦〜

 フフフ、よくきたな勇者達よ。


 そう、ワシが魔王じゃ

 貴様らはこのワシが捻り潰してーー


 『戦士の攻撃!魔王に80のダメージ!』


 痛っ……!

 ちょっ、お前まだワシ喋ってただろ。ボス戦で電光石火の先制攻撃やめろよ。

 ウェーイじゃない。人の話聞け。大学生みたいに騒ぐな。


………………。


 うん。やっと静かになったな。

 魔王、お前らが静かになるまでちょっと待ったぞ。

 別にいいけど。


 とりあえずワシこういう様式にはこだわりたいから。このダメージ分はもうサービスでいいからもう一回最初からやらせて。

 わかった?いくぞ?


 フフフ、よくきたな勇者た


『戦士の攻撃!会心の一撃!魔王に560のダメージ!』


 痛ッッッッ!!!!

 おま……戦士お前マジふざけんなよお前……ちゃんとやれって言っただろうが。

 フリじゃないフリじゃないよこのバカ。なんだよそういうフリって。

 おいハイタッチやめろハイタッチ。すぐ騒ぐな。


 ちょっと、代表者……ていうか勇者だれ?ちょっと手挙げて。

 あっ、お前?勇者お前なのね?

 あのな勇者?メンバーが問題犯したらお前の責任問題になるんだからちゃんと教育しなきゃダメだよこういうの。

 わかった?…………ええい返事が小さいモジモジすんなお前勇者だろ。

 ていうかお前さっきまでハイタッチとかしてたじゃん。

 あれか、お前内輪だと騒げるけど他人には急に人見知りするタイプか。


 まあいい。もう一回やるぞ。

 ん?うん、もう今回のダメージもサービスでいいから。もう640も失ったけどもういいから。

 今回だけだぞ。


 あと戦士。お前マジ3回目は無いからな。これほんとフリとかじゃないからな。


 よし、テイク3いくか


 フフフ、よく来たn


 『戦士の攻撃!しかし魔王はガードした!』

 『魔王の攻撃!戦士に7645のダメージ!』


 はいこれ戦士が悪いね。今のは完全に戦士が調子乗ったね。

 ワシ3回目は無いって言ったもんね。

 はい聞こえませーん。卑怯じゃないですー。

 だってワシちゃんとやろうって何度も言ったもん。それなのに不意打ちしたの戦士だもん。

 ワシそんな優しく無いもん。魔王だもん。


 ていうかお前ら戦士なんとかしてやれよ虫の息だぞ。

 ちょっとほら、内臓とか出ててすごいエグいし見てらんないからほら。

 いや、とりあえずワシへの非難とか一旦置いといて回復させろってマジで。

 うん、もうそれ水掛け論じゃん!いいから一旦置けってその話。仲間大事にしろよ!


 あーもうそこの女!お前僧侶だろ早く回復させてやれよ。

 あーあもう腕とかほら、ちぎれてほら………。

 怒ってない怒ってないから。ワシが言うのもなんだけど今戦士すごいかわいそうな感じだから急げって!なんでちょっとめんどくさそうなんだよ。


 『僧侶はデスキルを唱えた!戦士は力尽きた』


 ちょっ、デスキル⁉︎なにそのおっかない呪文。

 それあれじゃん5割の確率で殺すやつじゃん!

 いや間違えちゃったじゃないよ。僧侶がお前デスとかキルとか名の付く呪文覚えちゃダメだよお前。

 いや笑い事じゃないからほんと。爆笑やめろ勇者。おいって…だからハイタッチやめろお前ら人死んでんだぞ。


 とりあえず僧侶、蘇生呪文かけなさいよ。

 ん…?だから蘇生呪文だって、エレクトとかレアヒールとかあるでしょ。

 できない?お前僧侶なのに蘇生できないの?デスキルとか覚えてんのに?

 どこの世界に殺人呪文専門の僧侶がいんだよ。お前宗派どこだよ。

 ん……?いや別に勧誘とかじゃないから。気になっただけだから。選挙の誘いでもないから。ほんとそういうんじゃないから。


 あーもうお前そこどけ!ワシがかける。


 『魔王はエレクトを唱えた!戦士が生き返った』


 クッソ…地味にMPまで消費して……。

 ワシは正々堂々と普通にに戦いたかっただけなのにお前らのせいで……。

 大体、神に使える身でデスキルしかできないとか頭おかしいだろマジで…。


 ……いや僧侶なに泣いてんのよ。

 いやいやいやいや、なんでワシが悪いみたいになってんのこれ?

 泣かした泣かしたってうるさいよ子供かお前ら。

 てか戦士お前、誰が助けてやったと思ってんの。

 いやたしかに死の淵まで追いやったのはワシだけど、トドメ刺したのはこいつだからね?このバカ女。

 あぁ今のはたしかにちょっと口悪かったけどでも元はといえばそいつが……。


 ああああもうわかったよワシが謝ればいいんでしょ?

 はいはい、僧侶さんごめんなさい。これでいい?

え?声が小さい?……お前マジどの口が言ってんの勇者お前。

 お前あれだな、普段おとなしいくせに自分が正義だと思うと安全圏から容赦なく攻撃してくるタイプな。

 ワシお前ほんと嫌いだわ。


 うん。まあワシもちょっと言いすぎたかもしれない。

 僧侶さんごめんなさい。

 あ、許してくれる?ありがとう。

 あぁ仲直りの握手ね、はいじゃあこれで


 『僧侶はデスキルを唱えた!しかし何も起こらなかった!』


 あっっっっっぶねええ!ふざけんな僧侶お前バカ!

 いや絶対確信犯だろ今の!えへへじゃねえよ笑ってんじゃねえよ!

 いや、いま確信犯の誤用がどうこうとかいいから勇者。めんどくせえなお前ほんと直した方がいいぞそういうとこ。


 あーもういいもういい。お前らと真面目に戦おうとしたワシがバカだった。

 もう本気出す!ガチで本気出す!

 見せてやろう!これがワシ真のすがt


 『魔法使いはファイアーブレイクを唱えた!魔王に9256のダメージ!』


 ぐあああああ!

 ちょっ…誰だよ!魔法使い⁉︎

 えっ、いた?そんなんいた⁉︎

 うわっ、ずっと隠れてたのかこいつマジか……。


 ていうか勇者パーティ3人って聞いてたのに……。

 こんなガチ勢の魔法使いいるとか知らないんだけどどういうことだよこれ……!

 え…?サポートメンバー?

 なんだよそれお前らバンドマンかよ……畜生が……。


 ハァ……ハァ……いやちょっとマジヤバい。めっちゃしんどいこれ……血とかすごいいっぱい出てる……。

 元々ワシのHP10000くらいだから結構ヤバいかもしんないこれ。地味に戦士から640取られたのが効いてて腹立つ……。


 今日のために色々呪文覚えたりアイテム集めたりして準備してきたのに……ていうか真の姿まだワシだって見たことなかったのに…… 。

 何も出来ずこんな不意打ちで死ぬのかワシ……。


 朦朧とする意識の中で幼少期からの思い出がワシの脳裏に流れていく。


 お母ちゃんと一緒に食べたカレー、初恋の相手ナグラムちゃん、修学旅行のスキー、バイトが辛くてバックれたこと、部下にセクハラで訴えられかけて土下座したこと、延滞したまま放置してるDVD。


 あぁ走馬灯後半が酷い。

 ワシの悪い一面がすごい出てる。


 ワシこのまま死ぬのか?


 嫌だ……。

 こんな……なんか自己肯定感の下がりきった感じで死にたくない!!!


 うおおおおおおお!!!


 『魔王は真・魔王DXへと進化した!』


 フハハハハ勇者どもよ!これがこの俺様の真の姿だ!!

 どうだ?震えて声も出せまい?

 俺自身驚いている。なにせ一人称変わってるし声まで気持ちハスキーになったからな。

 名前はもう少しなんとなかったろとは思うけど。

 ええい黙れ黙れ。ファミコンのソフトって言うな。


 まあよい!

 長い戦いであったがこれで貴様らもおしまいだ!

 本当にちょっと当初の想定よりだいぶ長くなってしまったがいよいよラストだ!


 食らえ!我が最終奥義!

 ファイナルエクストラバージンクラッシュ!!


 『戦士の攻撃!しかしはじかれてしまった!』


 今更その程度の不意打ち効かぬわ!


 『魔法使いはバーニングファイアーを唱えた!しかし魔王には効果がないようだ!』


 真・魔王DXの火耐性を舐めるな!サポメンが!


 『僧侶はデスキルを唱えた!しかしなにも起こらなかった!』


 あぶねえええ!こいつやべえええ!


 『勇者はテレポートを唱えた!勇者パーティは離脱した!』


 えっ



………………。


 誰もいないダンジョンにワシのファイナルエクストラバージンクラッシュが虚しく炸裂した。


 嘘だろあいつら……

 ボス戦で逃げるとか……


 えぇ…うっわマジないわ。何考えてんのほんと。

 ああなんか冷静になったらイライラしてきた。

 大体あいつらおかしいだろ色々と……!そもそもあいつらーー


 プルルルル


 電話⁉︎誰だこんな時に!


 もしもしどなた⁉︎

 ……え?TETSUYA魔界村南店?

 あっ、DVDレンタルの……!

 すいませんすぐ返しに……えっ、延滞料2万円?マジっすか?100円で借りたのに?

 それぼったくりじゃないですか?

 えぇ……はい……はい。

 あっ、そのままだと……はい。

 いや、警察とかはちょっと……すいません今日中に返しにいくので……はい。失礼します。


 ハァ…………。



 魔王の憂鬱は続く。

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