激しい恋なんて、したことなかった。いつも、どこか冷めていた。恋だけじゃなくて、私の性格がそうなんだと思ってた。
勉強はそこそこできる。運動は得意っていうわけじゃないけど、体を動かすのは好きな方。学校では、先生たちと気が合って、打ち明け話をできる女の子が何人かいて。気の置けない男の子の幼馴染もいる。進学して、就職して、縁があれば結婚するかもしれないし、一生独身かもしれない。どっちでもいいやって、その程度に考えて今日まできた。
そのせいなんだろうか、会社をクビになったのは。人員削減して乗り切るために、苦慮の末に選ばれたのが私。
「よくも悪くも執着心がない。だから……うん、次のところも、きっとすぐ見つかるよ」
本当に申し訳ない、と頭を下げてくれた社長は、温厚なおじさん。お兄さんがご病気で亡くなって、急に事業を引き継ぐことになって、苦労されてた。業績を盛り返そうと必死な姿を間近で見てきたから、無理に残りたいとは言えなかった。
失業したのは年明けで、あれからもうじきひと月になる。二月の風が冷たい。梅の蕾は膨らみ始めているけど、春を待つ浮き浮きした気持ちにはなれない。
「今日のところも駄目だろうなあ……」
面接に行ってきた。丁寧に応対していただいたし、私の受け答えも経歴も、的外れではなかった。だけど、手ごたえがない。何がいけなかったんだろう。
「熱意、とか?」
寒空に問いかけてみる。答えはない。
「執着心か……」
喉に冷気が流れ込む。ぶるっと震えたのは、ちょうどカフェの前だった。そうだ、お茶を飲んで元気を出そう。
「いらっしゃいませ!」
広々とした店内は、半分くらい席が埋まってる。お昼が終わって空いてきたところだ。カウンターに並んでいる人はいない。
「店内でお召し上がりですか?」
「はい」
ロイヤルミルクティーを選び、注文する。ミルクたっぷりの熱いお茶にお砂糖を入れて、甘いもので前向きになりたい。
支払いをしてトレイを受け取り、席を決めようと見渡した時、「灯里!」と呼ばれた。声のした方を見ると、幼馴染の
「いいの?」
「もちろん!」
幼稚園から中学まで一緒だった
「その格好……就職活動か?」
「うん。失業中」
一月からのことを簡単に話し、甘いミルク味に慰めてもらう。
「そっか……どこも難しい問題を抱えてるんだな」
「幸太のところも?」
「うん、まあ事情は違うけど。重要ポストがずっと欠員でさ」
「よっぽど特殊な仕事なの?」
「特殊といえば特殊」
「ふーん……」
私には無理だろうなあなんて頭の隅で考えながら、旧友たちの近況へと話が移っていった。
駅へ向かう私と、会社へ戻る幸太は同じ方向。連れ立って歩き、大きなビルの前まで来た。
「あ、これは」
幸太の視線の先には、正面玄関から出てきた二人の人物。すらりとした長身の男性は、この世のすべてを味方に変えてみせると言わんばかりのオーラを放っている。後からきたおじさんは、上品で温厚そうだけど、表に出さない鋭さを隠し持っているように感じた。二人とも、ものすごく高そうなスーツに身を包んでいる。
颯爽と歩く長身男性は、頭を下げる幸太のところまで来ると、ぴたっと立ち止まった。見ているのは幸太じゃなくて……私?
「ほぅ……この女性は?」
「俺の中学の同級生です」
「昼休みか」
「あ、いや」
「いいよ、正直に言って」
言葉を濁した幼馴染の気遣いに感謝しながら、私は口を開いた。
「私、失業中なんです」
「ならば問題はないな」
「え?」
彼は後ろのおじさんを振り返った。
「決定だ。一時間後に戻る。話をまとめておいてくれ」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ、社長」
「行ってらっしゃいませ!」
おじさんと幸太の声に送られて、彼は立ち去った。
「社長……?」
何が決まったのかわからないけど、すごいものを見た。
「灯里、おい」
「んー?」
「何ぼーっとしてんだよ。あの人を初めて見たらそうなるのはわかるけどさ。お前、採用されたんだぞ」
「そうなの? ……え、採用!?」
「そうだよ。例のなかなか決まらなかった重要ポスト」
「立ち話もなんだから、中へ入ろうか。冴木くんも一緒に」
おじさんは私を正面玄関へ案内しながら小さなため息をついた。幸太の顔はひきつっているみたい。何で?
っていうか、わかりにくいです社長!
「それでは、と。これが辞令になるね」
おじさん改め
『
本日付で代表取締役社長豊宮一輝の専任秘書を命じる。』
「専任秘書って」
私のこと、何も知らないのに。
「社長の抜擢なら間違いない。冴木くんの推薦ということにしたからね、皆もすぐ受け入れてくれるだろう」
幸太は社内でそんなに信頼されてるんだ。尊敬の眼差しを向けると、照れ臭そうに視線を逸らした。
「でも、どうして私が」
「それは、社長に聞いてみた方がいいな」
うーん。あの人が、まともに答えてくれるだろうか。そもそも会話が通じるとは思えない。顔に出ていたらしく、部長は楽しそうに笑った。
「ハハッ、そう心配することはない。君もすぐ慣れるよ」
「はい……」