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人間観察

某チェーン店のカフェでアイスコーヒーのみを頼んでスマホでネットサーフィンを楽しむ。この日は[看護師 貞操観念]で検索した。このまま1時間以上は粘りたい。そして耳を澄ませてしれっと周囲のお客さんの会話を聴く…この時間は至福だ。わたしの休日はこうして過ごしていることが多い。


「シュークリームをお腹いっぱいたいらげた夢を見ながら、「う〜んむにゃむにゃ、もう食べれないよお〜」って寝言言うのが夢」


さっそく面白そうなことを言ってる客がいる。

わたしはスマホ画面に視線を向けながら、斜めの席に意識を集中させた。


白い肌に短髪くりくり天然パーマといった見てくれに眼鏡をかけた30代半ばくらいの男だ。緑のベレー帽を頭に乗せて黒髪をゆるく二つ結びにした30代前半くらいの女に語っていた。



〝シュークリームをお腹いっぱいたいらげた夢を見ながら、「う〜んむにゃむにゃ、もう食べれないよお〜」って寝言言うのが夢〟




わたしは脳内で復唱した。



甘党って甘えたが多いってどっかで聞いたことあるな〜とぼんやり思い出してしまった。




「ああ、そろそろ始めよっか」


「そうだね〜」


男がにこやかに女に笑いかけて、女は少し演技がかったようなワクワクとはしゃいだ様子で頷いた。そして男の向かいから隣へと、てこてこと女が嫌う女の歩き方でかわいらしく移動して座った。


な、なにが始まるんだ。


意識を男と女に集中させる。


男がテーブル下に置いていたやけに大きめの黒いリュックからパソコンを取り出しテーブルに置く。


「ちょっと待ってねー。うん、これでよし!繋がるかなー!」


パソコンになにかしらの操作を加えて、男は大袈裟に呟く。

カチカチとマウスをクリックする音が響いてすぐに「もしもしー?」と大音量でパソコンから女性の声が聞こえた。



一瞬カフェの店内が静かになった。


変な人たちだなとわたしは思った。


どうやら今からリモートを開始したらしい…。


「あ、聞こえますかー!」


パソコンから聞こえる女性の声に負けないくらいの声量の、男。


カフェの店内は、平静を装うように若干わざとらしく音や人の声が復活した。しかし客や店員はチラチラとパソコン前で2人並んでニコニしている男女を気にしているのがわかる。


「僕たち、結婚する予定入れたんですよ!」


男が照れたようにはにかみながら軽く言った。


女は両頬に両手を添えてデレ〜としている。



わたしはコーヒーをストローで吸っていたが一気に苦味を感じなくなった。


その間も、パソコンから「おめでとうございます!」と女性の声が淡々聞こえたり、謎の男女…というか謎のカップルは「紹介してくださったからこんな素敵な相手と巡り合えたんです!」と言いあっていた。





「んっ、けほっ」


わたしは笑いのツボが浅いので、コーヒーを飲みながら若干笑ってしまった。むせてるふりをしてやりすごすしかない。







カフェで結婚報告…リモート繋いでするなよ…。





「けほっ、けほっ、けほ…っウハハッ!」



自らの正論が脳内をぐるぐるまわった結果、

高らかに大笑いしてしまった。


向いの謎のカップルがこちらに顔を向けて、怪訝そうな顔をした。


わたしは残りのコーヒーをズゴー!と飲み干した。歩くペースの中ではトップクラスの猛スピードで返却口へとトレーを持っていき、すぐさま店を出た。



いろんな人がいるから、人間観察って楽しいんだよな。

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