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ブタの丸焼き

本日、季節は12月上旬。


コンビニで買い物をした帰り道。わたしはぬるめのホットティーの入ったペットボトルを両手で包みあったまっていた。


今朝は一段と冷えんだ。


息を呑むほど美しい紅葉をぶら下げていた木も随分と葉を落としている。しゃくしゃくと落ち葉を踏みながら歩く。こんもりした落ち葉の山を同居人が軽く蹴って遊んでいる。


それを見ながら


「ヤバい虫が潜んでるかもよ、犬のうんちとかもあるかも」率直に感じだことをわたしは述べた。




赤信号の前で足を止めた。


空は心まで澄みそうな青色だ。




同居人に「曇っていたらもっと寒かっただろうね」と言うと短く「な」と返ってきた。手には手袋を装着している。冬はこれからだってのに、乗り越えられるのか!?1月後半くらいから冬眠しだしたらどうしよう。




「ブタの丸焼きー♪」




下からワクワクを携えた高い声が聞こえた。




「丸焼きー!」




先ほどとは別の高い声がいたずらっこのようにキャラキャラ笑いながら叫ぶ。




わたしの視界の隅から小さな緑のダウンが2つ飛び出してきた。


大人になったからだろうか。子供の着ている服は着せ替え人形のようにちんまりと感じるし、あんなちいこいサイズがスッポリ入ってしまう命に感動さえしてしまう。




兄弟だろう。6歳くらいの兄と4歳くらいの弟のように見えた。彼らは信号待ちをして立っているわたしの周りにまとわりつきながら「丸焼き!丸焼き!」とキャラキャラ笑いながら追いかけっこしている。


母親らしき女性が後ろからついてきた。




元気だなあ。こういう場面で子どもがエネルギーの塊だとつくづく理解させられる。





ふとわたしが小学生の時の体育の授業を思い出した。




そう、あれは鉄棒運動だった。





「わたしが子供のときに、ブタの丸焼きっていう鉄棒の技があったんだよね」




わたしは現在もかなりふくよかな体型だが小学生の時もかなり身体は大きかった。クラスメートたちの前で鉄棒をしながらブタの丸焼きを披露して拍手されてたっけ。


あの時は恥ずかしかったけど、良い雰囲気のクラスだったよな。




信号が青に変わり歩きながら「さくらの丸焼き?」同居人がハハと笑う。




「失礼な!でも懐かしいな、今の小学生も体育でブタの丸焼きしてるのかな」




なんとなく先ほどの子供達が気になった。そういえばわたし達の周りは静かだ。人の足音もしない。


まっすぐ一本道だから途中で曲がるとかはないよな…。


ちらっと振り返ると、遥か後方に兄弟と母親らしき姿が見えた。遅いというより


意図的に距離を取ったように感じる。ほう。





「さっきの子ども達めっちゃ後ろにいる…」




同居人も「ん?」と振り返った。


同居人はなにかを察したように「あー…」。




この時点でわたしと同居人の推測はぴったり一致していた。




わたしはこめかみをひくつかせ、腹の底から震えた。


ややギレである。





「ブタの丸焼きってわたしのこと言ってたのかな?」




肩をすくめた同居人の「たぶん母親が気付いて、聞こえてたら失礼でしょって後ろに下がらせたのかもな」と火に油を注ぐ発言。




伝わったかわからないが…わたしは後ろから見えるように、購入したてのホットティーの入ったペットボトルを何度か振り下ろし、「あんま舐めんなよガキコラー!」の意を込めて小突くぞのジェスチャーをした。






【おわり】

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