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マッチングアプリの愚痴


私はベッドに寝っ転がっていた。天井に向かって、気合いが入りすぎて充血したパキパキの目で切実な想いで呟いた。




「彼氏欲しー…」




最近入れたマッチングアプリで、メッセージのやり取りをしていい感じになってる人と、本日13時から水族館デートすることになっている。国立大学卒で、身長173。同い歳。カフェで勉強するのが好きな生真面目そうな男性だ。顔写真の交換はしていない。




9時。この日の為に大金はたいて揃えたお洋服を身に纏い、鏡の前でひらりひらり回ってチェック。気合いは十分。




11時。メイクをする。本日はお肌の調子がよい。あがるゥ〜わたし誰よりも可愛い〜と思いながらグミを口に放り込んだ。


ちょっと緊張していてお腹は空かなかった。お昼ごはんはしっかり食べずにグミのみで済ました。





12時40分。電車に揺られて水族館に到着。アプリのメッセージ上で交換したLINEで連絡を取る。着ている服装の特徴をお互い伝え合う。ドキドキしながら待っていると、肩を叩かれた。




「さくらさんですかね。はじめまして」




男とわかるが甲高い声。


わたしの身長は162なのだが、来た男は目線が同じくらいだった。服装は薄い水色と白のストライプ柄の麻100%っぽいよれたシャツにベージュのズボン。黒いウエストバッグは左肩に掛けて持っていた。


顔はバカボンみたいだった。




身長10は盛ってんな?シャツにアイロンかけろ?ウエストバッグその持ち方してる人初めて見たんだけど?




うお〜と若干落胆しながらも「そうです〜はじめまして」。




いや人は見た目じゃないし。とりあえずデートしてみるか。トークが面白かったり、人格者だったり、稼ぎがいいとかあるかもだしと気を取り直した。




「いや〜よかったです」




男がニマーと目をかまぼこみたいな形にして笑う。




「よかった?」




「今まで待ち合わせしても、僕のこと確認したら帰る人ばっかだったんで。ちゃんと会ってくれたのあなたが初めてです」





あぁ…。




一気にテンションとモチベーションとわたしの周りの温度が下がった。




わたしは脳内でデカめのメガホンを手に取り思いっきり叫んだ。


『ハズレだーー!!!!』






入場してすぐ目の前に、サメや強そうなデカい魚がうじゃうじゃ泳いでいる巨大水槽が見えた。


わたしはその巨大水槽のおかげでテンションバロメーターがマイナスからやや復活した。




カッケー!と少年のように目を輝かせ、サメが口開けないかな〜とかワクワクしながら眺めていた。




「あっ、ちょっとこわい。全然かわいくないですね。僕は小さくてきれいな魚しか見たくない。早く次いきましょう」




振り返ると男は不安そうに目をたくさん瞬きさせながら早口で告げてきた。




…合わないわぁ。




カクレクマノミなどカラフルな魚が泳いでいてイソギンチャクもいる水槽の前で「かわい〜アジかな?食べれるかな?」とか言い出す男。


頑張って冗談言ってんのかな。さむいな。と思った。


「あっ違った、これなんて読むんだろ、難しい名前だな」魚の種類が記入されてるプレートのカタカナの羅列を見て言っていた。


いやカタカナ読めないやつとかいるんか?


こいつ国立大卒も嘘だな。




そして気になるのが、水族館に入場してからわたしの背後にぴったりくっつくように歩いていることだ。


こえーよ。距離も近いしばっちり息遣いが聞こえる。口呼吸かー…ないわあ。


エスコートはもう期待しないから前か横にいろよ。なんで背後なんだよ。




「ちょっと休憩しましょうか」




男の提案で、入場後たった20分で休憩することになった。




座るのかなと思ったら、椅子のある休憩スペースの隅で立ちながら休憩するようだった。




マジでなんなんだ。




かっこつけたように膝を少し立ててゆるく壁にもたれかかりながら、男が口を開く。




「いや〜楽しいですね」




いいえ、全然!とツッコミたかったがこらえた。





なーにを基準に楽しいと判断したのだね。




お時給発生しないかな〜と考えているわたしを差し置いて楽しんでるなら頭の中ハッピーすぎんだろ。このお花畑男め。




なんて言わず





「ね」とあやふやに笑っておいた。





「あなたもカフェ巡りが好き…なんですよねッ?」




語尾強めでまるで尋問されてるみたいだ。なにこれ取り調べ?




マッチングアプリでカフェ巡りが好きってプロフィールに書いてる女子の大半は、昼間に気軽に会って少しお話し出来たらいいなって考えてるだけで本当にカフェ巡りが趣味なわけじゃないからな。勘違いすんなよ、と言いたかった





「はい」




「じゃあ今度おしゃれなカフェにいきましょう。僕のすんでる町にあるんです。勉強教えてあげますよ。プロフィールにも書いてるけど地元の国立出たので」




「あはは」





国立大卒についてはもう察した。特に言及することもない。


男の住んでる町は確か、この水族館から電車で1時間。遠すぎる。




まあ近くのカフェ指定されたって次会うことなんてないけど。


なにが楽しくてコイツの近所の住所まで足を運ばなきゃいけないんだ。勘弁してくれ。








「あっ僕車で来たのでこのあと××町までショッピングにいきませんか?お洋服とか買ってあげますよ」





男は前のめりになりながら最悪の提案をしてくる。




××町はここから車でも1時間ほどかかるし山奥じゃん。なんだか雲行きが怪しいな。


マッチングアプリで出会った相手とトラブルになった事件を思い返しながら、顔面が引きつって頬がぴくりと痙攣するのを感じた。





というか。




「車で来たんですか?」




前もって交通手段は電車だと決めていたのに。




メッセージでも「僕も電車乗り継いでいきますね」とかいってたよね。




トラブルや犯罪の文字が本格的に脳内にぷかりと浮かんだ。





「はい。車で来ました。駐車場に停めてます。駐車場代高いので早めに××町にいきましょう」






満面の笑みを向けられた。黄色い歯がむき出しになっている。




こ、こわすぎる。車に乗ったら変なとこ連れてかれそうだな。この男、さっきから挙動がおかしいしヤバいやつなのではないか。


ひんやりして背筋が震えた。




「車酔いが酷いので、車には乗れません」




嘘だけど。




「え〜大丈夫ですって」




身体を揺らしながらヘラヘラ笑う男。




わたしの危機察知センサーが鳴りまくっている。




「無理です」





この押し問答を6ラリーほど続けた。男は唇を尖らせ眉を潜めて腕を組みながらなにか考えているようだ。この場から逃げた過ぎる。




「わかりました!じゃあ次デートするときは車酔い止めの薬買って飲んできてください」




ヤベー!この男、異常だ。




その後駅で男を撒いた。


追いかけてきてるんじゃないかとおびえがら何度も振り返って確認しながら帰宅した。


電車の中で男のLINEをブロックしてマッチングアプリからも退会した。




そしてふと思った。


彼氏欲しいって漠然と願っていたけど、恋愛ってなんだ。




わたし…男と遊びたかっただけじゃないの。





今まで毛嫌いしてきた、ワンナイト目的のナンパをする人やセフレがいる人と変わらないんじゃ…?





もしかしてわたし…倫理観の欠如が著しい…?





急にハラハラしてきた。


悪いことをして、誰かに、なにかに、謝らなければいけないような気持ちになった。脳と心臓がきゅっと絞られて血の気の引ける感じがした。




気が付いたら必死で恋愛について検索していた。


特定の異性に特別の愛情を感じて恋い慕うことだとヒットした結果がスマホに表示された。


そういうこと頭になかった。めんどくさいとすら感じた。




ああなるほど。わたしは人に対するリスペクトをすっ飛ばしていたのだと理解した。




なんて浅ましい!ばっちい!わたしは自分の未熟さを猛省した。





恋愛に感心がないのにいたずらに異性とお付き合いをして関係を持ちたいだなんて…他人と自分を貶め弄ぶ、これほど愚かでリスキーな行為はないと思う。










わたしがこんな体たらくでいたから、それにふさわしいブッ飛んだ男とマッチングしたのだろう。


そういえば、デートしているときは男への不信感と嫌悪感で心で毒吐いてばかりだったように思う。




行動や発言の節々に思うことはあったが、これも社会勉強になったように考えよう。


様々なタイプの人間がいるのだ。


多様性を受け入れることも必要だ(かといって我慢する必要もないが)。




わたしもあの男も、わざわざお互いのためにメッセージを重ねてデートもして時間を費やしたのだ。それに対しては男に感謝をしておこう。





フリーでも、充実した毎日をご機嫌に送っているし大満足している。


親や周りや環境に恵まれているおかけだ。感謝をしよう。







それからわたしはマッチングアプリから距離を置いた。


(いろんな意味でいろんなものが)怖かったです。あなたも気をつけて下さいね。



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