緑パンズと青パンズで白パティが挟まれているハンバーガーにも見えるし、緑と青の間にもどかしく絶妙な距離が空いているようにも見える（この場合緑と青は付き合ってないが好いてるもの同士の告白前の空気感を漂わせている感じする）、上から緑白青のラインが入った某コンビニはご存知であろう。

で、その有名すぎるマークのコンビニのチキンがべらぼうに美味いってことをみんな知ってるのが大多数だろう。この世は多数決で進むことがあるが、このエッセイも同上である。

某マークのコンビニのチキン（Fチキンと呼びます）はみんなが食べたことがありみんなが知ってる美味すぎるご馳走なのである。

11月下旬。イチョウが眩しい程色づき、カエデや梅が夕日のように染まり、見事に世界が紅葉ユートピアとなる季節。外出先から帰宅するついでに、コーヒーを目当てに某マークのコンビニに寄った。

気が変わり、コーヒーからコンビニ独自ブランドのルイボスティーに変更しカルパスとエビマヨおにぎりも追加で購入した。気まぐれイエ〜ス。

レジ横に、サンタクロースのコスチュームを纏ったイイ女達が表紙を飾る無料冊子が山積みになっていた。ペラ…とめくるとホールケーキやワインが注文出来るカタログだった。

クリスマスに向けて浮かれポンチだな…！気に入ったぞ！

一冊手に取り持ち帰ることにした。

帰り道は紅葉を眺めルイボスティーをあおり飲みながら、豊かな感情が満ち満ちていた。

帰宅して、エコバッグからカルパスとエビマヨおにぎりと飲みかけのルイボスティーを取り出してテーブルにひろげ置く。カサッとクリスマスのカタログが手に当たり、そうだそうだ…と存在を思い出してカタログも取り出した。そのままペラ…ペラ…とめくる。

「厶！」

わたしはFチキン特集のページで手を止めた。

チキンBOXだと！様々なチキンを多彩なバリエーションで楽しめるのか！

これは買いですね！

わたしは申込用紙にFチキンBOXの希望個数と取りに行く日時、名前と連絡先を書き込んだ。備考欄に『ホカホカのチキンが食べたいので作りたてをお願いします』と書こうとしたが、図々しいと思われたら利用し辛くなるので空欄にしておいた。パートのおばさん達やバイトの学生達に、クリスマス特に忙しいのに業務の負担を増やすなやホカホカチキンとか言われて、よく利用する店鋪だってのに次の日からあだ名がホカホカチキンになったら嫌だからだ。

わたしは繊細なのだ。

名前と連絡先は同居人のものを書いておいた。

そして12月に入ってすぐ申込書を某マークのコンビニへ持参し予約の受け付けをした。

受取日時はクリスマスの夜だ。

ワクワクチキンカウントダウンでもしようかと考えている。カレンダーにチキンまであと×日とか書き込もうかな。

○○○

クリスマスがやってきた。

カレンダーの本日の日付にクリスマスチキン18時と書いてある。

受け取り希望時間の２０分前に、クリスマスチキンを迎えにわたしは同居人と自宅を出た。

外はすっかり暗くなってしまった。

普段見る街灯さえ、きらびやかなクリスマスの装飾に見えてしまう。聖なる夜の不思議なパワーだ。

すれ違う人達の顔も朗らかで雰囲気も楽しそう。

「あ、暖房つけっぱなしで出て来ちゃった」とわたしは気付いて囁いた。

同居人はあちゃーみたいな顔をした。

コンビニに到着し、レジのおばちゃん店員に予約票を渡す。レジのおばちゃん店員は予約票をじっくり確認して「ご予約の、アングラ様ですね！」と元気よく間違えた。誰ですかそれは。

「ヤマノミツですが…」

「失礼致しました！えーっと…」とおばちゃん店員はレジ横に貼っている用紙と予約票を交互に見ながら確認する。

「ヤマノミツ様…ん？名前がない…」

おばちゃん店員は顔をしかめた。めっちゃ不安になった。予約してるクリスマスFチキンありますよね？

隣のレジで手持ち無沙汰になったおじさん店員がひょこっと顔を出して、レジ横の用紙をペラペラめくる。「名前あるよ、ここ」とおばちゃん店員にひそひそ声で教えていた。

「ただいまチキンと袋を用意いたします、少々お待ち下さいませ」

おじさん店員はニッコリ笑って軽くペコリとお辞儀した。一安心。Fチキンのキープ出来ていたようだ。

「クレジットで」

同居人がスマホのクレジット画面を掲示する。おばちゃん店員はチャキチャキと操作し、支払いは終わった。そのままチャキチャキとレジのケースからトングで掴んだチキンを真っ赤なBOXに詰めてゆく。

「袋は…あっご不要ですね」

わたしは手持ちのエコバッグの中でも一際大きなサイズのエコバッグを持ってきていたので主張して「はい」と頷いた。

エコバッグに真っ赤なチキンBOXを詰めた。

コンビニを出て帰り道同居人が「待ち時間なくて良かったな」と満足そうに言った。

ほんまそれなと思った。

帰宅し、チキンBOXからFクリスピーチキン３つとFチキ３つを取り出し同居人と山分けした。

クリスマス特典だろうか…どのチキンもいつもよりひと回り大きかった。

「なんかいつもよりデカいね？」

「デカい」

「おいしいね」

「うん」

とか言いながら同居人とムシャムシャチキンを食す。

わたしと同居人は大食漢なのだ。あっというまにチキンをたいらげた。

一先ず先にわたしは食後の休憩を取ることにした。ソファにどっかり座る。あー食べた食べた！美味かったー！

ソファはリビングの真ん中に置いてある。さらにソファの前にテレビがある。わたしはソファに座り、エックス旧ツイッターをしながらテレビで放送している年末番組も眺める。

「ヘヘッ」

年末番組に出演しているタレントの発言が面白くて、だらしない笑みを浮かべる。スマホを持つ手の力が抜ける。そのままゆらりと力なく腕が顔の前からそれた。

同居人が食べ終えた後のお皿を洗い場に置いてキッチンからこちらのリビングに移動してきた。

「ワハッ」

さすが年末番組。超一級品のタレントをぞろりと揃えているだけあって、ずっと面白い。

「…」

同居人がわたしの座るソファの後ろに立っているのが気配でわかった。そして圧が凄い。無言だが空気がピリリとしている。

えー！わたしなにか怒られることしたかな。もしかしてシェアしようねと買った二本入りカルパスを一人で二本共盗み食いしたのバレちゃったのか！？

わたしはテレビから意識をそらしたーーーそしてスマホ画面に気付いた。開きっぱなしのエックス旧ツイッターの、おすすめツイートが出てくる画面で全裸の巨乳アニメイラストがデカデカと表示されていたのだ。同居人の目にもバッチリ入っているだろう。

いつの間に。

というか好き好んで全裸の巨乳アニメイラストを表示させてたわけじゃないんだが！？

なぜだ、モフモフ動物や美味そうな料理をアップするアカウントしかフォローしていないこのアカウントで…なぜ全裸の巨乳アニメイラストがおすすめで出て来たのだ？？

おわった。山ノ蜜さくら、本日のわたしのプライドと立ち位置は今ヒビが入り乾いた紙粘土のよりにパラパラと崩れおわった。

「…」

チロッと顔だけ動かして同居人の様子を伺う。しらけた目を確認した。だいぶ引いてるう〜〜〜気まず〜〜〜〜〜〜〜！

な、なにか言わなければ……………。

「ら、来年もコンビニFでクリスマスFチキン頼もっか…」

【おわり】