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第五夜「高鳴り」

「はわぁぁ……どうしましょう。とても可愛らしいです……!」


 睡蓮は桃色に染まった頬を両手で包むと「はにゃ~」と脱力していく。


 白煙から現れたのは、なんと一匹の狐。

 ちなみに狐と言っても、白狐や黒狐のことではなく一だ。獣の、お稲荷さんの狐である。

 稲穂を連想させる綺麗な毛色が泥を被ったように薄汚れていたが、睡蓮には関係なかった。


「しかも見てください。ネクタイを付けていらっしゃいますよっ」


 睡蓮は瞳を輝かせながらそう皆へ笑顔を零すと、狐に向き直って腰を下ろした。どうぞ座ってくださいと言わんばかりに太ももを差し出して、腕を広げるのだった。

 狐も睡蓮に応えるようにぴょこぴょこと駆けていくが、


「待て」


 狛に首根をひっ掴まれて阻止されてしまう。

 狐は必死に四本足を動かしているけれど、ランニングマシンのように前進出来ずにいる。足元の砂利を転がして、砂埃を巻き上げていくだけだった。


「断りもなく真っ先に美月と融合したんだ。話を聞かせろ」

「な、なんできみに許可を取らないといけないんだよ。触るなって、放せよっ」


 狛に体を持ち上げられた狐は、さらに躍起になって体をバタつかせた。


「喋ったし……。睡蓮と融合っていうことは、こいつはやっぱり……」

「白狐さんと黒狐さんです」


 狐はギクッと体を硬直させた。狭い額から滝のような汗が流れる。


「まぁ狐たちあいつらと入れ替わって出て来たもんな……。にしても妙じゃないか? なんでこの一匹しか居ないんだ?」

「はぁ、言われてみればそうですね……。んん~ん~……あっそうです! きっと融合の融合ではないでしょうか!」

「いや美月、少し違う。こいつは元々」


「元々?」と眉根を寄せる昂と小首を傾げる睡蓮に「だああああ!」と狐が叫ぶ。

 白狐か黒狐と思われる狐は、自分の首根を掴む狛へ振り仰ぎ、つばをまき散らせながら言った。


「わかった。話なら聞かせてやるから、取り敢えず太秦さんのところへ戻ろうか! そ、それにほら昂。君も疲れただろうから、一度太秦さんが用意してくれている泣沢ノ泉なきさわのいずみに、巫女さまと入って来ればいいって」

「ナキサワのイズミ……そうだ、それ。さっき狛が言っていたけど、それって一体なんだ?」


「お人のお名前みたいですね!」と話の腰を折る睡蓮だが、狐は優しく笑った。


「ええっと泣沢ノ泉は、簡単に言うと穢れを祓う場所だよ。人は怨霊と接触するとどうしても穢れが移ってしまうんだけど、そもそも巫女さまは清らかだし、霊魂を慰撫いぶしてくれるから特に影響を受けやすいんだ」


「ですが私は何も……」と、自身の身体を見回して不思議がる睡蓮だが、その身を案じて昂は慌てた。


「駄目だ睡蓮。早く泉に向かおう」

「異議なし異議なし! 他にも訊きたい話はあるかもしれないだろうけど、また追々教えてやるからさ。だから今は早いとこ戻ろうか? それに早くしないとこっちが困る……」

「困るのですか?」

「だああああ! なんでもないよ巫女さまっ。それより昂、巫女さま心配だろ? 泉に早く!」


 二つ返事で昂は頷く。


「今はこいつの素性になんて構ってられない。睡蓮、泉に向かおう」


「は、はぁ」と、既に昂に手を引かれていた睡蓮が返事をした時だった。

 睡蓮の瞳が何かをとらえた。


「待ってください。あのっ、あれはなんでしょうか?」


 睡蓮が指を差すと、皆が一斉に空へ見やる。

 上空に白い光を纏った小さな何かが浮いていた。やや縦長の四角い形のもの。


「怨霊……じゃないよな? なんかの本……みたいに見えるけど」


 そう言いつつも、睡蓮を庇って立つ昂。だが睡蓮はじっとせずに、昂の背後から顔を覗かせた。


「大丈夫ですよ、ありがとうございます。ですが昂くん。何か見覚えがあるような気がしませんか……? それに嫌な感じもしません」

「ああ確かにそうだな、俺もそう思う。なぁ狛、あれが何かわかるか?」


 昂もいい加減この世界に慣れてきたらしい。現実離れした現象にも動じなくなっていた。といっても単に、狛たちが慌てる素振そぶりを見せないので危険に思わなかっただけかもしれないが。

 昂の問いには、狐がマズルを開けて答えた。


「まさか、これってしんアイテムかも?」

「新アイテム?」

「昂、正式名ではないから忘れていい。だがそうか……伝承の」

「出たぁ、伝承~っ」


 伝承に記述があるとされる神アイテムは、ゆっくりゆっくり下降していく。

 まるで意思を持っているかのように、自分の元へと近付くそれに睡蓮は魅せられ手を伸ばした。光は触れると消えてしまう。


「わっ……!」


 ぷつんと糸が切れたように落下するそれを、睡蓮は抱えて受け止めた。

 手に持って眺めた後、睡蓮は自分と同じように閃いた表情をした昂を見て、笑顔になった。


「はい! これは御朱印帳ですねっ」


 睡蓮は再び御朱印帳に視線を落とす。

 紐で和綴わとじした表紙の中央。そこに記された文字を指の腹でなぞりながら、狛から教わった通りに読み上げる。


あま現世うつしよ……。あの昂くんこれ、小学校で習った象形文字に似ていませんか? まるで漢字の成り立ちみたいです」

「美月。これは神代文字かみよもじと言う」

「神よ文字ですか?」

「ほら睡蓮、うちの石上稲荷大社の朱印とかにも使われている文字のことだよ」

「朱印……」


 睡蓮は昂に向けていた顔をゆっくりと戻しながら想起して、ちょうど正面を見たところで「ああ!」と表情を明るくした。


「まあ種類も多いらしいし、俺もよくわかっていないけどな。それにここに書かれている文字は、たぶん俺たちの世界には存在しないものなんだろうと思う」


 睡蓮は昂と一緒に神代文字を眺め、それから表紙を開いた。中身を確認するように視線を滑らせて、ページをめくっていく。


「真っ白ですね……ええっと」

「こら」


 さらにページを運ぼうとした睡蓮の手を、昂はすかさず取った。


「気になるけど、また後でだ睡蓮。今は泉へ急ごう」

「あ……」

「そうそう、その方がいいって!」


 狐は激しく同意して、何遍も首を縦に振る。その首根を摘まんで持ち上げている狛も頷いた。

 睡蓮は皆に詫びた後、大人しく狛たちの案内の下、昂に手を引かれながら帰路に向かう。何処からともなく現れた光の柱を昇って、再び八尋殿へと戻った。


「遅かったな。もう用意出来てるぞ」


 太秦は狐の姿を前にしても、表情一つ変えなかった。

 彼も烏に姿を変えられるのだ。使わしめたちの中では、当前のことなのかもしれない。


「すみません。色々とお気遣い――」

「狐。どれだけ私を待たせるのだ。早く先程の融合について教えろ」


 睡蓮の話を遮って、太秦は狐に声を掛けた。

 釣った魚には餌をやらないタイプなのだろうか。狛も狛で、そんな太秦の態度を気にも留めていないようだった。


「あっち、あっちで話しますから!」


 蒼白い顔で汗と唾を巻き散らかす狐の胸中を見透かしたのか、太秦はため息を吐くと、やれやれといった調子で術を発動させた。

 黒い羽根が使わしめたちの足元に出現し始めるそんな中、狛が昂に近付く。


「な、なんだよ?」

「……妙な気を起こすなよ」


「帰れなくなるからな」と、まるで釘をさすかのような言葉を残して、狛は他の使わしめたちと一緒に姿を消した。


「なんだよ妙な気って……。行こう、睡蓮」

「は、はい」


 昂に手を引かれたまま、睡蓮は既に居なくなった太秦たちに頭を下げた。



 ――カコーン。


「これはマズイって……」


 湿り気をたっぷり含んだ湯気が、気まぐれに昂の視界を遮っていく。

 ヒノキのような木の香りや、大きな浴槽から溢れ流れていく湯の音が耳に心地好く、それだけでも心身を癒していくようだった。


「どこが泉だよ普通に風呂だろこれ! いや、ここまで来ると温泉施設か⁉」


 浴場自体は広々としているが、内風呂が真ん中に一つ設置されているだけの非常にシンプルな造り。壁に飾られた橙色の灯りが温かく、木目をより美しく見せていた。


「穢れを落とすとかの、泉って話じゃなかったっけ? もっと神聖な場所かと思っていたんですけど?」


 昂は目をカッと開くと、邪念を振り払うようにぶんぶんと頭を振った。


「何考えてるんだ俺! 睡蓮に必要な場所なんだよ、ここは!」

「……あの、昂くん?」


 背中に声を掛けられて、昂は慌てて口を押さえた。

 昂は自分の言動に戸惑いを見せていたが、取り繕うように笑うと振り向いて言った。


「な、なんでもないよ睡蓮。ごめん早く泉に――……」


 しかし長襦袢ながじゅばんを着た睡蓮を前に、昂はまた口走ってしまう。


「やば……可愛すぎだろ、その格好……」


胸先三寸むなさきさんすんの吐露】


 昂の視界には恐らく入っていないだろうが、入口にはそんな泣沢ノ泉の効能がしっかりと掲示されていた。


「どうかされたのですか?」


 昂をぽかんと見上げていた難聴系美少女の睡蓮は、不思議そうに小首を傾げた。


「ど、どうかされたのかって……。いやだって、いつの間にか襦袢なんかに着替えているし……」

「そうですね。昂くんがこちらに入られた瞬間お姿が変わったので、私もとても驚きました」

「え?」


「メタモルフォーゼです!」と瞳を輝かせる睡蓮に、今度は昂が頭に疑問符を乗せる。

 だが自分の着衣に視線を移してみれば、その理由はすぐに判明した。昂は思わずって叫んでしまう。


「なんで勝手に⁉」

「ふふっ。昂くんとお揃いなんて久しぶりです」


 睡蓮は子どものような顔で笑った。

 しかしその無邪気な声が反響するのは、泣沢ノ泉の一帯だけであって――。


「おおおおおおお揃いとか、い、言うなよ……」


 昂は動揺を見せまいと、手で顔を覆ってみたり、視線を逸らしてみたりした。でも睡蓮が心配そうに顔を覗き込むと、昂はもっと平静さを失った。指の間から覗く昂の眼球が、睡蓮の身体をなぞる。


「こ、こら。かかか、屈まないっ」

「昂くん……。もしかして、お寒いのですか?」

「さ、寒いなんてそんなことあるか。だ、だってさ、ここ結構暑いだろう? あ、暑いよな⁉」

「暑い……そうですね。立派なお風呂ですものね……」


 睡蓮の口から発せられた“お風呂”というワードが、昂の頭の中を悪戯に響いていく。この状況下に加え、年相応に成長プロセスを辿っている昂にとって、今の一言は追撃に等しいと言える。昂は目を回しながら、くらくらと身体を揺らした。

 なんとか昂は上体を起こして復帰すると、辺りを見渡しながら腕を広げた。


「はは、睡蓮ったら何を勘違いしているんだ。こ、ここは、おふ、お風呂じゃないぞ? い、泉だぞ~?」


 そんな風に昂が、懸命に理性を保って睡蓮へ訴え掛けた時。

 なんの前触れもなく、二人の身体が重なった。


「へ……? す、睡蓮⁉」


 突然自分のふところに飛び込んできた睡蓮を、昂は咄嗟に抱き留める。

 大胆とも思える行為だが、睡蓮は単によろめいた拍子に身を預けただけのよう。

 とは言え胸元に顔をうずめたまま動かない睡蓮に、昂はひどく困惑した。まあ密着が出来ているのだから、本心は嬉しくないはずがないのだろうけれど。


「ど、どうした睡蓮。疲れ――……」


 昂は何かを察したようで、ドギマギしていた表情を正した。

 そして「ごめん」と一言断ると、遠慮気味に抱いていた手を肩から腕に向かって滑らせる。


「身体が冷たい」


 名前を呼んでみても、睡蓮はぐったりとしているだけで返事をしない。

 昂は睡蓮を抱きかかえると、すぐに泉へ向かった。昂は躊躇ためらいもせずに泉の中へと入る。


「本当に温泉みたいだな。……よし」


 体感的には、泉質に問題がないようだ。

 昂は慎重に腰を屈めて、睡蓮の体勢に配慮しつつ足先から泉に触れさせる。


「睡蓮、熱くないか? ……うん、そうか」


 頷く睡蓮を見て、昂は額に玉のような汗を掻きつつも胸を撫で下ろすことが出来た。

 睡蓮を抱きかかえたまま泉に浸かると、腕の中で眠る彼女の頭を撫で、慈しむように髪を梳いていく。

 それから昂は、泉に浸かっていない肩の部分にも掬った湯を丁寧に掛けてやった。耳当たりの良い音がせせらぎ、泉には波紋が広がる。

 肌に張り付く長襦袢が次第に泉へと溶け込んで、十分に水分を含んでいった。


 昂は只々夢中で介抱に努めていたのだが、睡蓮のあられもない姿にぎょっと目を見開いた。口を真一文字に結び、目を瞑って昂はやり過ごそうとする。


「昂くん……? あの、私……」

「睡蓮! 大丈夫か⁉」

「はい。すみません、少し貧血気味になってしまったみたいです。でももう大丈夫ですよ。とても楽になりましたから。昂くんのお陰です」


 微笑む睡蓮。その笑顔は、普段よりも幾らか弱々しかった。


「無茶していたんだな。ごめん、俺……睡蓮?」


 睡蓮は昂の額に触れ、親指の腹で汗を拭った。


「ありがとうございます」

「え……?」

「こんなに汗をお掻きになるまで、一生懸命にしてくださって」

「これくらいなんでもないよ。むしろさっき、須佐神と対峙した時、俺なんの役にも立たなかったからさ」

「そんなことありませんっ。私は昂くんが傍に居てくださると、とても安心できるのです。それにあの――」


 身体を引き離して向き直ろうとする睡蓮を、昂は抱き寄せて止めた。


「昂くん?」

「ごめん。襦袢が透けてんだ」


 睡蓮は状況を呑み込めずに一度きょとんと昂を見上げたが、それは一瞬で、すぐに赤面した。

 泉の効き目のお陰で調子を戻して来た顔色は、元を通り越して一段と熱を増したようだ。恥ずかしそうに顔を俯かせ、睡蓮は黙り込んでしまう。


「温かいな」

「はい……」

「ちょっと熱いくらいか?」

「ふふ、そうですね。それはきっと、今だからかもしれません」

「今だから……そうだな。長湯しないようにしないといけないな」

「はい」

「陰陽術のことさ、びっくりしただろう? 黙っててごめん」

「はい。でも少し知っていました」

「ああ、そうだな」

「はい」

「……なぁ、睡蓮」


 一呼吸置いて昂は睡蓮を呼ぶと、視線を外したまま口を開いた。


「俺とこうしているのって……嫌か?」


 不安げに訊く昂へ、睡蓮は思案することなく「いいえ」と首を振って返事をする。


「そっか」


 昂は安心したようにそう言うと、睡蓮の額に自分の額を合わせた。睡蓮は目を丸くさせて驚く。


「睡蓮、俺の目の中をよく見てみな?」

「目の中をですか……? あ」

「あ……!」


 少し大袈裟に自分の真似をする昂を見て、睡蓮は嬉しそうに瞳を潤ませる。

 瞳の中に互いを映して、二人はしばらく時間を忘れて微笑み合うのだった。



「あっ、帰ってきた! ねー巫女さま~! たーすーけーて~!」

「太秦さんと狛のやつが、しつこいんだ~!」


 二人並んで泣沢ノ泉から戻ると、元の姿に戻った白狐と黒狐が駆け寄ってきた。

 少し離れた場所で、何か意見を交していたしつこい二人とやらも、睡蓮たちに気付くと同じように寄って来る。


「陽の巫女。穢れが取れたようだな」

「はい。私たちのために泉をご用意して頂き、どうもありがとうございます。お風呂みたいで気持ち良かったです」

「風呂? ああ、あれのことか。確かに似ているな……」


 瞼を閉じて、おもふけるように顎を撫でる太秦に、狐たちが群がる。

 話によると、睡蓮に憑依した日。烏のフォルムで色々と偵察をしていたらしい。つまり入浴中の睡蓮も見て来ていたとのこと。


「はあ⁉」と眉間に皺を作った昂が、狐たちと束になって太秦に詰め寄るが、ここでも睡蓮は難聴を発動する。

「皆さん、どうしたのでしょう」と、あわあわとした。


「まったく……。おい美月、穢れは払われたみたいだが体調はどうだ?」

「え? ああ、はい。大丈夫ですよ、狛さん。昂くんが献身的にしてくださったので、もうすっかり元気です!」


 それを聞いて昂が振り返る。ちょうど向けた睡蓮の視線とぶつかった。


「……そうか」


 頬を染め合う二人を見て、狛は言葉少なになる。昂が再び太秦へ向き直って問い質し始めると、狛は睡蓮の視界を塞ぐように立って言った。


「次は俺を選べ」

「え?」

「それから、泉にも俺と……」


 そう睡蓮の耳元で呟くと、狛は背を向けて部屋を後にしたのだった。



『……巫女。私の可愛い巫女』


 声に気付いて睡蓮は寝かせていた瞼を開けた。

 辺りは霧が立ち込めていたが不思議と見通しは良かった。

 だから振り返ってすぐに気が付いた。睡蓮はそこに佇んでいた神々しい女性を見てはっとする。


『また逢えましたね巫女。私は天照大御神あまてらすおおみかみ。そうですね、巫女にも皆のように大御神と呼んでもらいましょうか。……巫女、我が倭へ来てくれて本当にありがとう』


 睡蓮は恐縮した。

 静かに首を横に振って、そしてふと訊ねた。自分は幼馴染みの昂や使わしめたちと一緒に八尋殿で眠っていたはずだと。


『巫女、ここはそなたの夢の中。私と陽の巫女は夢を介して繋がるのです』


 そういえば太秦が眠る前に話をしてくれていたと、睡蓮は思い出して納得する。

 それから睡蓮は必死に願い求めた。皆が大御神を待っていると。皆にも姿を見せて欲しいと。


『慌てないで巫女。私はただ皆と隠れん坊をして遊んでいるわけではないのです。私が再び目を覚ますには、まず倭の穢れを祓ってもらわないといけません。そのためには』


 睡蓮は頷き、固唾を呑んで待つ。

 大御神はそんな睡蓮に目を細めると、これまで通りゆっくりとした口調で言うのだった。


『巫女、十三の使わしめとの融合を果たすのです。まず向かうのは――』



「……ん、朝でしょうか?」


 翌日。やはり太陽は昇っていないようだが、窓から射しこむ光ととりの鳴き声で睡蓮は目覚めた。

 睡蓮は外の景色を確認しようと身体を起こそうとしたが、異変に気付いてめる。睡蓮は熱を帯びたように頬を赤く染めて、瞳を潤ませながらその身をよじった。


「何かが……身体の上を這って……へ?」


「ひゃああ!」と睡蓮が悲鳴を上げると、バタバタと激しい駆け音がこちらへと一目散に向かってきた。

 その騒がしい足音が辿り着く前に、タンッと扉が素早く開く。


「どうした美月!?」


 扉を最初に開けたのは、一番近くで護衛をしていた狛だった。


「大丈夫か睡蓮! って、な!?」


 足音を立てていた張本人である昂がすぐに割って入って来たが、時が止まったように動けなくなった。

 それもそのはず、睡蓮の襟元から顔を出していた白蛇しろへびと目が合ったからだ。

 蛇に睨まれた蛙というよりかは単に面を喰らっていた様子の昂は、すでに取り押さえようとしていた狛よりも先に睡蓮を助けたかったのだろう。必死な形相で駆け出した。しかし――。


 ぽんっ☆ ぽんっ☆


 煙がもくもく。

 昨夜のような光景に、昂は顔を青ざめさせた。


「My princess!」


 狛の腕を払い退け、昂の気持ちをよそに、そう嬉しそうに叫びながら長身の美青年は睡蓮へと抱き付いたのだった。


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