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第16話「才能の使い方」

「な、なんだかルージュ君とクルス君、仲良くなった?」


「はっはっは! そう見えるのなら何よりだねっ!! そうともまぶだちというやつさっ!!」


「あははそうだねまぶだちだねおうじさまのともだちたのしいなぁうれしいなぁ」


「る、ルージュ君の目が死んでる……」


 図書館でクルス王子と話をしてから少し、クルス王子、めっちゃ距離詰めてくるじゃん?

 調査隊選抜試験まで残り一週間となった今だが、ますます普通の学院生活からかけ離れていっているような気がするけど、皆様いかがお過ごしでしょうか。


「はぁ。悪い、切り替えるよ。とりあえず、調査隊選抜試験対策だけど、正直俺たちの実力はまだ三年生に比べたら頼りないものに違いない」


「そうだね。否定はしないしできないとも」


「むしろあたしなんか頼りないどころか……うぅん、ごめん。頼りない、だね」


 素直にメンタルコントロールについて学んだ成果なのか、ルルさんはちょっと前向きになっていた。

 喜ばしいことではあるが、魔法に関する腕は上達が見えない。


「改めて俺は試験を免除されてるから置いておいて。今日から残り一週間は二人が調査隊に入るべき理由作りに集中したいと思う」


「理由作り?」


「ふむ? それはつまり、調査隊に僕とルルさんがいたほうがお得だよと言えるようにということかな?」


「そういうこと。つまりはコンビで動いたときにしか得られないモノを作りたいと思う」


 言っている意味は理解してもらえただろうが、じゃあ具体的にどうするのって顔している二人に向かって一つ頷く。


「ルルさんは以前にも言ったように一度の魔法行使で放出される魔力量は多い」


「う、うん。けど、放出した魔力を全部魔法に出来る魔力操作技術が身についていない、だよね?」


 エンリが引き続きルルさんについて調べてくれた中で分かったことがいくつかある。

 それはルルさんが極炎の婚約者かどうかは別にして、やっぱり人の形をした魔法増幅器となるべくして作られた人間であるということ。


「そう。なら逆説的に言えば、誰かがルルさんの放出した魔力を操作することが出来れば高威力な魔法に変化させられるということだ」


「確かにそうだけども。他人が放出した魔力を操作するなんてできるものなのかい?」


「確証はないけど、図書館でその方法が載っている文献があってな。望みを懸けるには十分現実的だと思って複写してきたんだよ」


「ほほう」


 実際に本を開いて複写したわけじゃなく、頭の中から引っ張り出して複写したわけだが、あの後も何度かクルス王子と図書館で会ったしつじつま合わせにはちょうどいいだろう。


「クルスは風属性の適性が一番高いけど炎に変えることもできるって言ってたな?」


「あぁ。風魔法ほどではないけど、得意とは言えるかな」


「ルルさんは炎、だったよな?」


「うん。楽にできるって意味でなら炎だね」


 俺は森でルルさんを介して魔法を行使した。

 自分の魔力を送る技術は高等技術ではあるが、難易度を落とす方法は存在する。


「そこで、これだ」


「えーっと? パラレル・キャスト?」


「うん? ルージュ、僕の記憶に間違いがなければそれは親が子の魔力を体外に放出するためのものではなかったかな?」


「その通りです」


 生まれたての赤ん坊や魔力を放出することが苦手な子供は存在する。


 でも魔力は人体にとって有害だから放置することはできない。

 故にパラレル・キャストと言って親が子と手をつないで自分を通し、子の魔力を排出するという技術があるわけだ。


「そんな目で見ないでほしい。確かにこれは誰にでもできるというか、親になる人間が真っ先に覚えなくてはならない義務のような技術だけど。使いようによっては中々面白いみたいなんだ」


「面白い、ねぇ?」


「案ずるより産むが好し。とりあえずクルス、ルルさんの背中に手を合わせてみてくれ」


「念のために聞いておくけど。危険はないんだね?」


 もちろん、と言いたいところだけど、ルルさんをパラレル・キャストの放出口にする限り危険も問題もない。


「文献を調べた限り、魔力保有限度量が大きい人間へとやる分には無害のはずだ」


「文献かぁ……えっと、ルージュ君の経験上で確かじゃないの、かな?」


 エンリに対して何度もやってるし大丈夫だって確信はあるけど、言えないよなぁ。


「経験したことはない。けど、単純な話としてクルスがルルさんに保有している魔力を全て注いだとしてもルルさんになんら影響はないからな。クルスが害意をもってルルさんへと魔力を注ごうとしない限り大丈夫だよ」


「……クルス君?」


「僕のハードルをいきなりあげないでくれたまえよ……だが、誓ってルルさんを害する考えはないよ」


 クルス王子から一瞬恨みがましそうな視線を向けられたけど知らないふりをして。


「よし。じゃあクルス、ルルさんに向けて魔力をゆっくり注いでくれ」


「わかった」


「ルルさんは流れてくる魔力をそのまま自分の手から放出するんだ。自分に留めようとするんじゃないぞ?」


「や、やってみる!」


 クルス王子の魔力が注がれ始めて何秒か。少し遅れはあったもののルルさんは突き出した手から魔力が放たれ始めた。


「そう、その調子……うん、安定してきたな」


 もう少し手こずるってもいいんだけどな。

 やっぱり教えていないとは言っても、ルルさんは森狩りの時に一度経験しているからか?

 それとも器の一族ならでは、なのかもしれないけど。


「なんかちょっと、変な感じ」


「だ、大丈夫かい?」


「心配してる場合じゃないぞ。この形でルルさんが放出している魔力を操作するのはクルスだ。ルルさんを杖だと思って炎魔法を使ってみるんだ。間違っても自分の手元から魔法を放ったらダメだぞ、ルルさんの丸焼きはシャレにならない」


「ほんとにシャレになってないからねっ!?」


 わざわざ今言うことなのかなと恨みがましい視線を二人からもらってしまった。ジョークじゃないか……。


「悪かったって。最初は出力を絞って、そうだなそれこそ火傷すらしない程度の火を生む魔法を使ってみてくれないか?」


「わかった」


 そして驚くといい。


「ふっ――」


「んっ!」


 クルス王子が使ったのは恐らくファイア・ポイントという指先に小さな火を生む魔法。


 そんな初歩も初歩と言える魔法が。


「「――はい?」」


 目を丸くするルルさんの手のひら、その先で、ごうごうとうねりをあげて燃え盛っていた。

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