「ふぁ、ファイヤー・ボールッ!!」
「おおぅ……」
座学はもちろん必要だが。
魔法を学ぶ、ひいては磨くというのなら実践が当たり前に必要だ。
そんなわけで今日の午前は訓練場で魔法の練習だった。
年齢に制限が設けられていないということは、それなりに魔法というものを知っている人間が入学していておかしくないというわけで。
ラナ先生は基本的に危険が無いように監督するのみで、班を組み話し合いをもってやってみろという形が取られた。
ドカンいやんバカんと音が鳴る中、ひゅるるーなんて情けない効果音を響かせながらルルさんのファイヤー・ボールがレジストの施されたカカシにあたって音もなく消える。
「ど、どうかな?」
わかっているだろうに何かを期待しているかのようなルルさんの視線に、思わず同じ班に組み込まれたクルス王子と目を合わせてしまったが。
「の、伸びしろを大きく感じるね! 素晴らしいよルルさんっ!」
流石の王子様、口の上手さがないと王族はやってられない。
大袈裟かもしれないが、拍手を持ってクルス王子に続いて口を開こうとするけど。
「……いいよ、わかってる。やっぱりあたしってばダメダメな子だもん」
「い、いやいやいや!? 仮に、そう! 仮にそうだったとしてもこれからすごくなる可能性は大いにあるのだからね!」
残念ながらルルさんは体育座りをしながらいじけてしまった。
クルス王子のフォローが空しく響くが、恐らく内心どうしてこの腕で合格したんだという考えでいっぱいだろう。
森狩りの時に見た魔法が夢じゃないとわかっているだけに、あの時とのギャップで混乱しているとも言えるが。
「慰めだってわかってる分余計に辛い」
「む、むぅ……ル、ルージュ!」
「はい?」
「どうにか助けてくれたまえよっ!」
助けろと言われてもなぁ。
「じゃあ慰めじゃなくて事実を言いましょうか」
「事実?」
「そう、紛れもなく、客観的に見て揺るぎない真実というもの」
「説明されなくても、わかるよぅ」
才能がないって自認してるわりにえらくいじけるね、女心ってのは本当にわからん。
「座学で教えられたように、魔法と言うものは魔力を体外に排出する行為のことを指す」
「うん」
「魔法属性の適性っていうのは排出する際にどの形が一番楽に放出できるかって意味だな」
「学院に来てからまず初めに教わることだが、教わるまでもない常識というものだね。ルージュ、それがどうしたというんだい?」
どうしたもこうしたもない。
「俗に言われる凄い魔法というものは、一度に多くの魔力を放出し、放出した魔力を操作して複雑な形を作ったり。信じられないような効果を発揮するもののことを指しますよね?」
「まぁ、そうだね。凄い魔法という言葉を紐解くならルージュの言う通りと言えるだろうね」
「ならルルさんは間違いなく凄い魔法使いになる、凄い魔法を使える存在に至る可能性を高く有している人間ですよ」
「……ふぇ?」
ジト目から何言ってんのこいつみたいな目に変わったけど、わからないかな。
「さっきのファイヤー・ボール。確かに炎になった魔力は少ないけれど、一度に放出された魔力は中々にとんでもない量だった。それこそ、俺は見ていないけどすべての魔力を炎とできたなら極炎、様? が扱う魔法って思われてもおかしくないと思う」
「そ、そう、かな?」
「少なくともあのカカシに施されている魔法抵抗術式、レジストは完璧に突破してたよ」
厳密に言うならば、魔法とは魔力を体外に排出するだけのことをそう言って、放出した魔力を火や水に変化させて操ることを魔術と呼ぶ。
ルルさんは自分で言っていたように魔力を操作する技術が拙い、つまり魔術力が低いとは言える。
だが、魔法単体だけで考えるのならとてつもない才能を持っていると言えるだろう。
「……なるほどね、ルージュ。やはりキミは目の付け所が一般的ではないんだね」
「う、うん。やっぱりルージュ君って凄い人、だよね?」
「凄いと言われるほど普通から逸脱しているなら、ルルさんは入学試験に合格してないかと。俺と同じ考えを持った人間、あるいはそれより先を考えられた人間が学院にいるからこそ、ルルさんはここにいる」
「それも、事実というものかい?」
そういうことである。
正直に言えば、こんなモノは当たり前の範疇だと思う。
比較対象として考えるのはダメだが、極魔に名を連ねようと志す人間にとって基本も基本な考え方であり魔法使いへの目の向け方だ。
「確かに、俺はルルさんやクルス王子より現時点で多少魔法のことを知っているかも知れないですが。半年もすれば俺と同じことを当たり前の顔して言ってると思う、というか思いたいです」
若干難しいというか、腑に落ちない表情をする二人ではあるけれど。
極炎ではなくルージュとして言えることはこれでギリギリってところだろう。
この程度の考え方ができるレベルに半年で至ってもらわなきゃエスペラート魔法学院の名が地に落ちる。
かといって俺が凄い人なんですよアピールをし過ぎれば学院性としての生活がやりにくい。
「何にせよ、自分次第であるのは間違いない。それに、ここからは事実じゃなくて予想になるけれど。ルルさんが凄い魔法を使ったっていうのはその時の精神的なコンディションが高まったからなんじゃないかな?」
「精神的なコンディション?」
「あぁ……それは少しわかるかもしれないね。気分が昂っている時は荒々しい魔法を発現させてしまったり、落ち込んでいる時にはイマイチな魔法になったり、そういうことだろう?」
「その通りです。クラスメイトの窮地をどうにかしないとって前向きな気持ちが魔法に現れた、そういう可能性だってある。ルルさんは魔力の操作と一緒にメンタルコントロールも学んでみたらいいんじゃないかな?」
メンタルかぁとつぶやくルルさんには申し訳ないけれど、流石に心構え一つでああも差はできない。
ただ、心構えを大切にするのは間違いじゃないし、実際に及ぶ影響も無視できないもの。
「よっ、スーパーヒロインッ!」
「そっ!? それ言ってくるのルージュ君だけだからね!? も、もうほんとにやめて!?」
え、まじで?
かっこいいと思ったのに……なんで誰も言わないかな?
「流石の僕も口にするのは憚れるね」
「……そっかぁ」
まぁいいや。
この調子でルルさん自身の地力もつけて行ってもらおう。
調査隊参入試験は一か月後だ、何とか頑張ってもらわないとね。