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第12話「誰だって何かを名乗ることはできる」

 つまるところルルさんが話したかったことってのは、極炎の妻に相応しい魔法使いとなるためにはどうすれば良いのかってことだった。


 とりあえず存在を認知してもらうために、やっぱり調査隊に志願したほうがいいんじゃないのって話して終わったけども。


 あぁ、うん。

 要約して尚更思うけど、知り合って間もないクラスメイトに相談することじゃないだろう。


 けど、エスペラート魔法学院は貴族の出が多い上、入学に年齢制限がない。

 上を見れば40台の人もいればまだようやく10歳になった人だっているから、そういう相談が生徒間であってもおかしくはないとは言えるのかもしれないが。


「ルージュ様」


「あーうん、どうだった?」


「申し訳ありません、真偽は不明です。不明ですのでスピアードの一族を全部燃やし尽くしてきますね?」


「はい落ち着こうね。火のない所に放火しようとするんじゃないよ」


 正直なところ、結婚だ何だって話はそりゃもう公式、非公式を問わず正気を疑うくらいに頂戴した。

 優秀な魔法使いの間に生まれる子は大体優秀なのだ、国の頂点にいる極魔たちは子供をバンバン作れと義務レベルで求められていたりする。


 実際、極風と極土は夫婦で既に子供も三人いたりする。

 極魔であるってフィルターを外せば非常に仲睦まじい夫婦だ。

 三人の子供はまだ一番上が6歳になったばかりだが早くもかなり魔法の才能を見せ始めているし。


「で、ですが! 極炎様には私という女がいますのに!」


「どさくさでもないのに紛れて嫁さんヅラするな」


 おこなの? おこだよ。

 ぷんぷん丸状態のエンリはさておきだけど。


 真偽が不明ってのは、調査力が不足しているという意味じゃなくて、件数が多すぎて追いきれないという意味だろう。


 中には露骨に婚姻という関係を持たずとも子供だけなんて内容のモノすらあったし、それを含めたのならとんでもない数になる。


「ただ、どの話も了解の返事をした覚えはないんだけどな」


 あえて言うなら極水とのものだけ。

 それもお互い面倒な結婚だなんだの話が来ない様にっていう目的のためだし。


 ……効果はあんまりなかったけどね。

 ってか俺はともかく、まだお子様な極水にまで来るってのは控えめに言っても狂気を感じたよ。


「ふぅ。承知しております。それだけにスピアード家との婚約が事実であるのなら極水様が飛んで来そうなものですし」


「あんまりしたくない想像をさせるなっての。けど、それはそう」


 もしかしたら他ならぬ極水が認めたことなのかもしれないけども。


 うーん……。

 子供ができる年齢にまで成長する繋ぎにルル・スピアードを俺に宛がおうとした、とか?


 いやいや、ないわ。

 ちっこいくせにドン引きするくらいの貞操観念を持つ極水が、そういう発想を許すはずもない。


「残る可能性としては、スピアード家の当主が国へと働きかけ、その結果密約的に結ばれたと言った場合でしょうか」


「無くはない、な。だが、可能性を言うのならルルさんがウソを信じ込まされている可能性のほうが高いだろう」


 現実的に考えればだが。

 スピアード家は確かに器の一族なんて異名を持つほど魔法使い界隈でそれなりに名を馳せている貴族だ。

 だが、そうであっても国へと密約を持ち掛けるなんてできる程の力を持っているわけじゃない。


 むしろ裏道を取ろうとすればすぐさま処罰されてしまうだろう、正々堂々やれと。


「……如何、なされますか? 極魔、並びに王国調査部を動かせば」


「明るみに出してどうするんだよ。スピアード家の顔に泥を塗るのがオチにしかならない」


 きな臭さはあるが、問題にまで発展しているわけじゃない。

 何せ当人である俺に影響がないのだ。確かにルルさんは可愛らしい人ではあるが、実は知らない内に決まっていた婚約者なんですと名乗られても、じゃあ結婚するかとはならないしするつもりもないのだ。


「真偽はともあれ、俺とルルさんの魔法的な相性が良いのは間違いない。こんな形で器の一族ってやつを実感するとは思わなかったけどな」


「む」


 森狩りでは単に都合が良いからでルルさんを使っただけだったけど。

 今まで経験した誰よりも抵抗がない状態で魔法同調ができた。


「私より、でしょうか?」


「妬くってことは傍から見ただけでも理解できたってことだろう? あえて口にして欲しいならそうするけど」


「いけず、です。これはご寵愛でしか許せません」


「エンリがルルさんクラスに俺と同調できるようになったとしたなら、間違いなくエンリを選ぶけどな」


「はう」


 固まったエンリに苦笑いが浮かぶ。

 現時点で俺の火炎魔法をそのまま放出できるくらいに仕上がっているルルさんだ。

 同調される技術や、ルルさんを経由したことで魔法力にバフをかける技術なんかを磨き完成できたのなら。


「……器の一族、か」


 中々に末恐ろしいとは思う。

 なるほど、魔法使いが嫁や婿に迎えるわけだ。

 子供のためにという部分をお題目にしているわけではないだろうが、何より生きた魔法増幅器扱いできるっていうのは……な。


「ルージュ様?」


「いや、なんでもない。そんなルルさんを学院の極炎に仕立てようとしている俺が言えることじゃないだろうし」


「では、エースは」


「あぁ。ルルさんになってもらう。俺は彼女をバックアップするって形で動くことにするよ」

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