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第10話「困っているのは誰?」

「キサマの推薦だ、応じてやりたい気持ちはあるのだがな。クルス王子は言うまでもないが、ルル・スピアードを、か……」


 まだルルさんから参加するという返事を貰えたわけではないけれど、外堀を埋めるというか根回しをしておくというか先にラナ先生へと推薦という形には応じてもらえるかと話をしてみれば難しい顔をされた。


「クルス王子は確かに言うまでもなくですが。ルルさんが難しいのには何か理由があるのですか?」


「ふふ、キサマのそういう自然な自分への自信があるところは嫌いじゃないぞ?」


「はい?」


「自覚なしか。通常、推薦とは教員や三年生が下級生に対してするものだ。実力あるものが下の人間を取り立てるために使われるものだぞ?」


 ……あ。

 俺ってば実力者だぞなんて思い上がりムーブ晒してしまったわけね……恥ずかしすぎる。


「失礼しました。未熟者故の思い上がりと思っていただければ」


「分相応と思っておく。話を戻すが、クルス王子に関してすぐ返事をするのは難しい。国へとお伺いを立てなければならないからな」


 気を取り直して。

 ルルさんとの会話に割り込んできたことといい、クルス王子も調査隊に何とか自分をねじ込みたいという思惑がありそうなのは見て取れる。


 見て取れるが、難しくはあるだろう。

 第三であろうが第二であろうが、王子という肩書がある以上自分の行動には帝国という名前がついてくる。


 そう思えば入学式の後、早々にクラスメイトを危険に晒したあたりをどう考えるかだけど。


「承知しています。俺自身、クルス王子に言われたからこうして言っているだけです」


「義理と礼儀を果たしただけだと」


「ええ。ですが、ルルさんにしてもそうですが。クラスメイトの中で、上澄みに在る魔法使いであることに違いはありませんよ」


「……なるほど。キサマも両名をそう見ているか」


 キサマも、ってことは先生もそう見ているってことだろう。

 だと言うのに躊躇する理由があるというのなら。


「試験結果ですか」


「やれやれ、その通りだ。クルス王子は交流生として試験を免除されているし、ルル・スピアードは合格ラインギリギリ。両者ともに立場のことを加味せずとも周りを納得させられるモノを示せていない」


「俺にはあったというのに?」


「あまり虐めてくれるな。私のゴリ押しがあったのは事実だが、キサマの試験結果はクルス王子がいなければ新入生代表として選ばれていておかしくないものだったのも事実なのだから」


 結果的に悪目立ちせずに済んだからお互い様と思うべきか。


「では、納得できる事実があれば別だと」


「というよりはまともに調査隊へ志願して参加試験を受ける他にないというべきだな。重ねて言うがキサマの推薦に応えたいという気持ちはある、しかし現実的には難しいと言わざるを得ない。すまん」


「いえ、無茶と無理を言っている自覚はありましたので。こちらこそ申し訳ありません」


 言葉通り無理を言っているのはわかっている。

 ただ、こうして職員室で話をしたことで俺が今こう思っているというのは教員たちに伝わった。

 何なら奥の机にいたエンリは小さく頷いていたし、恐らく国の関係者だろう人間たちも目で承知したと伝えてきた。


「気にしないでくれ。私としてはキサマの人柄というものに触れられてうれしく思っている」


 いやちょっと先生? クール系美人にそんなこと言われると胸がときめくので止めてください?


「っとそうだ、参考までに教えてくれ。キサマはルル・スピアードの何処に魔法使いとしての才を見たんだ? 確かにスピアードの人間らしく、体内に留められる魔力許容量は中々に人外じみているが」


「あの魔力許容量だけでも十分な才だと思いますが。スピアードの人間らしく?」


「うん? なんだキサマ知らなかったのか? スピアード家とは代々魔法使いの伴侶を輩出している貴族だ


「……あー」


 なんとなく聞き覚えがあったのはそれか。

 確か別名、器の一族だったっけか? 力ある魔法使いの嫁、あるいは婿になるための人間を輩出できるようにしている貴族とかなんとか。


 ルルさんがその一族であるってことはなるほどね。

 あのどれだけ魔力を注いでも魔力に侵されないと思える並外れた許容量、俺というか他者の魔力への馴染み易さは器の一族だからってことか。


「まぁいい。何にしてもだが、志願とは自らが望んでするものだ。まずはその意を示して欲しいという面もある。融通が効かないと思われてしまうかもしれんが、許してくれ」


「とんでもないです。先生に相談できてよかったです」


「そう言ってもらえると助かるよ」




 困ったような先生の笑みに見送られて職員室を後にすれば。


「ルージュ君」


「あれ? どうしたんだ?」


 見覚えのあるどころか、さっき見た先生と同じ種類の笑顔を張り付けたルルさんが居て。


「その、ね? 一緒に帰りたいなって」


 おおう、これぞ青春って感じだね。まさか味わえるとは思わなかったよ。


 だけど、まぁ。


「あぁ、俺で良ければ構わないよ」


「ありがと」


 寮まで五分もかからないのは周知のことだ。

 僅かな時間でも一緒にいたいなんて甘酸っぱい関係でもない。


「じゃ、ちょっと寄り道していこうか」


「……もう。ありがとうね」


 それくらいのマナーは、知ってるよ。

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