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第9話「したくなかった実感」

 なし崩し的に調査隊へ参加することにはなったが、三年生以外は基本補助参加といった形になるらしい。

 というのも、現地調査とは言うがフィールドワークに近い三年生の選択授業の一つとされているからだそうな。


「エリート、ね」


「極炎様に遠く及ばぬ小物ばかりですが」


 エンリの小物発言は聞き流すとして。


 このフィールドワークへ参加できるのは三年生であっても一定以上の成績が求められるそうだ。

 逆に言えば、調査隊へとスカウトされたり参加を許可されたのなら優秀な人間と認められるということでもある。


「後出しは卑怯だよな。あの時問答無用で断っておけば良かったよ」


「全員焼きますか」


「なんでだよ」


「死人に口なしでございます」


 エンリの過激発言は後で教育的指導するとして。


 二年生の中からスカウトされることはあっても、一年生の中、それも新入生のヒヨコから選ばれることは早々ない。


 要するに相当将来有望かつ現時点でかなりの実力者だとラナ先生から目されているってことだ。

 悪目立ちとは言わないが、このまま行けば自由に身動きは取れなくなってしまうだろう、回復魔法を学びたいだけの俺としてはありがた迷惑としか言いようがない。


「エンリ、三年生の実力は調べているか?」


「現時点で平均Cプラス、といったところでしょうか。一部抜きんでている者は存在しますがAランクには届かないかと」


「よくてBプラスか……本当に獣人がいるとしたなら、厳しいな」


「調査隊を率いる教員はラナ・マシュー含めいずれもAランクといえる者たちですが。足手纏いを庇った上でとなると、仰る通りです」


 俺としてはここが最大の誤算だった。


 国の最高峰と呼ばれている魔法学院にしては少しどころか物足りない。

 戦争終結が見えたころから魔法の力を磨くよりも、貴族としてのなんやらを磨くことに執心していたか?


「ラナ先生がどうして俺を見込んだのかがわかったよ」


 試験で見せたフレイム・ウィップはどれだけ良くてもCマイナス程度の評価しか得られないと見込んでのものだったけど、学院の現状がこれなら有望株どころか既に実力者として見られても仕方ないと今なら思える。


「学院性のレベルが、想定より遥かに低かったと」


「新入生のレベルが低いのは当たり前だ。だが最上級生でAランクに届かない程度ってのはな」


 宮廷魔法使いを目指せる最低ボーダーラインとは魔法使いの認定ランクがAであること。

 俺を含めた極魔はSSと言われていて事実上の最高ランク。極火、極水、極風、極土の四人直下が持つ部隊は最低Sランクであることが条件の上、更に選抜試験が待っている。


「先達の背は大きければ大きいほど良い。改めてこの任務に就いてから、ルージュ様の部下で良かったと心から思いました」


「ありがとさん。けど、このままじゃあ宮廷魔法使いを目指すための条件緩和すら視野に入れなきゃならなくなる。平和になりそうだからで緩めてる場合じゃない。他国、あるいは王国内に工作員がいる可能性は十分にあるが、まずはここをどうにかしないとな」


「では」


「あぁ、エースが必要だ」


 宮廷魔法使いや俺を含めた極魔が機能しているうちは大丈夫、なんて言っている場合じゃない。

 極炎の座を何度も俺から奪おうとエンリが戦いを挑んできたように、競争自体のレベルは最低でも維持されておくべきだ。


「こういうのは極水に任せたいんだけどな」


「私にお任せを」


「任せたいとは思っているよ」


「好きです。今晩お待ちしております」


 できる女の正体見たり脳みそ筋肉さんはあてにならない。


 ガラじゃないのは百も承知だけれども……はぁ、爺さんはこの辺りも織り込み済みだったのかもなぁ。


「幸いエースに仕立て上げられるだろう人間はいる。俺との魔力的な相性も良かったし、なんとかするよ」


「私もルージュ様と相性が良いですよっ!」


 ほんとどうしてエンリはこうなったのか。

 ギラギラした目を向けられていたころが懐かしいよ、カムバック。




「ルルさん」


「うん? どうしたの? ルージュ君」


 もしかしたらルルさん以外にもエースへ仕立て上げるに適した人間が探せばいるのかもしれないとは思う。


 ただ、一晩真面目に考えてはみたけれど、非常に稀有な才能を有している人間であり、エースの器ではないかもしれないが、エースと呼ばれるに相応しい力を手にしやすい人間に違いない。


「単刀直入に聞きたいんだけど。調査隊に志願する気はないか?」


「――はい?」


 可愛らしく首を傾げたそのままに、何言ってんだこいつと目を点にされてしまった。


「え、えっと? ごめん、ルージュ君。よく聞こえなかったよ」


「ラナ先生から興味があるならどうだって誘われているんだ。よくよく聞けば一年生は補助参加というか、後方で先輩たちの支援がメインみたいだしさ、よかったらと思って」


「はいぃっ!? よ、よかったらって!? あ、あああ、あたし、だよ!? る、ルージュ君が誘われたっていうのには納得だけどね!? あ、あたしギリギリ滑り込み合格さんだよ!?」


 あ、そうだったんだ。

 そういや届いた合格通知書とか、エンリにネタバレ食らったから見てないや。


「なら余計に、だと思うけど」


「余計にって!? あの時の魔法を見て言ってたりするのかな!? あ、あれはあたし自身わけわかんなくて――」


「皆が言ってるルルさんの魔法を俺は見てもないから判断材料にないよ、落ち着いてくれ。目標とする背中は大きいほうがいいと俺は思う。確かにクラスの奴らはクルス王子含めて才能のある人間がいるかもしれないけれど。この学院で磨かれた三年生より凄いってわけないだろう?」


「そ、それは当然っていうか、そうかもしれない、けど」


 原石と磨き抜かれた宝石なら、当然輝いて見えるのは宝石だ。

 今の生徒たちの実力に疑問点は多くあるけれど、学院内って世界で見て考えるならまた違うだろう。


「どういう自分になりたいのか。それを探すって意味でもいい機会になると思うぞ。少なくとも俺はそう思うからお誘いを受けようと思ってる」


「……そう、なんだ」


 ルルさんの背中を学院で見せつけようと画策している俺が言うことではないかもしれないがな。


「今決めてくれなんて言わない。志願受付まではまだあるし、選択肢の一つとして覚えておいてくれると嬉しいな」


「……うん」


 悩み始めたルルさんではあるが、瞳の奥でちらりと焔が煌めいている。


 この分なら。


「やぁやぁルージュ君にルルさんっ! 何の話をしているのかな?」


 おまけか頭痛の種かはついてきそうだけど、問題ないだろう。

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