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第8話「戦いの歴史は魔法の歴史」

 人類の歴史とは戦いの歴史である。


「――故に、故意的にモンスターを生み出すような行為を我が国では固く禁じている。モンスターとなった存在は凶暴性もそうだが、何より人を命を繋ぐ糧とする」


「文字通り食料としても、苗床としても、ですか」


「その通りだ」


 何処かの偉い人が言った言葉だそうだが、魔力という存在が人類を戦いから逃がしてくれなかったとも言えるだろう。


「モンスターと人間の合いの子、通称獣人は極めて高い身体能力を持って生まれてくる。また、魔法を放出すると言う形ではなく、内効。つまりは高い身体能力を更に高めるために使うことが出来る。人間側の生みの親は自我が崩壊している場合が多く、まともな知性を持った獣人はほぼいないと思っておくべきだ」


「……酷い、話ですね」


 人間同士の戦争が終われば人間とモンスターの戦争が始まり、それが終わればまた失った領土や人そのものを増やすために人間同士の戦いが始まる。


 獣人とは言ってしまえばそんな争いから生まれた悲しい命と言える。

 うちの国では名目上の保護を掲げてはいるが、実際に保護できた例は少ない。


「私がこうして回復魔法の教師としてここにいるのも、敵を倒すための魔法よりも味方を癒すための手段こそが明るい未来を作ると信じているからだ。諸君らにこの考えを押し付けるつもりは更々ないが、どうか頭の片隅ででも覚えていてくれると幸いだ」


 改めて、だが。


 ラナ先生と出会って僅かな時間しか経っていないが、どうにも尊敬に値する人というか、尊敬したくなる人間であるらしい。


 こうして回復魔法の授業一発目にそんな話をしているところを含めて、俺からの好感度が大変に高まっている。


「さて。回復魔法とは四大元素、つまり火、水、風、土のどれにも属さない言ってしまえば無属性の魔法であり、誰でも使えるが誰もが扱える魔法ではない」


「え、っと?」


「わかりにくいか。では……そうだな、ルージュ。意味が分かるか?」


 おっと、ご指名だね。


「魔力という人体に対する有害物質を持って人間を癒すなんて相反する理を持っている魔法です。行使した人間は治療したと思っても、結果的に相手を害している可能性があるという意味でしょう」


「結構、素晴らしい答えだ座っていい」


 おおーなんて声と共に着席する。

 割と前線で戦った経験のある人間からすれば常識ではあることだが、褒められて悪い気はしない。


 うん? てかルルさん? ちょっとおめめキラキラしすぎだからね?


「そう、ルージュの言った通り回復魔法とは一歩間違えれば、あるいは互いの相性が悪ければ相手に悪影響を及ぼしてしまう可能性のある魔法だ。現在、万人を癒せる回復魔法使いとはこの世に存在していない」


「そ、そんなに難しい魔法、なんですね」


「いや? 先も言ったが誰にでも使える魔法であることに変わりはない。言ってしまえばただ魔力を相手に注ぐだけの魔法だからな。しかし、見ず知らずの誰かを治療するために、多くの見ず知らずの人間を犠牲に磨かれた技術であるだけだ」


「……」


 教室が静まり返った。

 本当にラナ先生は優秀な人だ、ふるいの掛け方一つでこうも凄い。


「だが、帝国との戦争が終わった今。一つの光明が差し込んだ」


 うん? なんだろう、光明?


「帝国は兼ねてより獣人に関する研究を進めていた国でな。獣人が自らの身体能力を魔力で強化するのであれば、人体の自然治癒能力も向上させることができる可能性があると発表した」


「な、なら! この学院に帝国の人が来たのは!」


「政治的な部分があるのは否定できないが、いずれ互いの国が持つ魔法に関する知識を用いて更なる発展をという声が上がっている」


 ……初耳、ではあるが。


「……なるほど、ねぇ」


「うん? どうしたの? ルージュ君。怖い顔、してるよ?」


「いや。獣人に関する研究ってのが、ちょっと引っかかっただけだよ、気にしないでくれ」


「う、うん」


 非人道的な研究がどうのとキレイごとを言うつもりは全くない。

 そう言うのは人殺しはダメですーいけないことですーと心の底から言って実践している人間こそが言うべきセリフだ。


 発展や進歩の陰に犠牲とは必ず存在するものである。

 だから仮に帝国が獣人を文字通り解剖して研究した結果何かを掴んでいたとしてもおかしくはない。


 それはたとえば、そう。


「モンスターへの強制進化、とか?」


 人為的にモンスターを生み出すことが出来たのなら。


 あの森狩りで、帝国の人間、それも王族なんて立場のあるクルス王子は何かを確認しようとして、誤算だったという表情を見せた。


 外来種がどうのはともかくとして、あれはあの森を実験場として扱って、その成果を確認しようとしていたんじゃないか? それもクラスメイトの実力を測りながら。


「いや、証拠はない、か」


 僅かな情報でここまでもしかしたらを考えられるんだ、国の首脳部だって当然考えるだろうし、俺が首を突っ込む必要はないだろう。


 問答無用というよりは流されて決まった調査隊の活動もあることだし、とりあえずは様子見だ、切り替えよう。


「――む。時間か、では本日の授業はこれまで。また明日もここで諸君らの顔が見られることを期待しておく」


「あ」


 ……切り替えるの、遅かったよ、ぐすん。

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