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第5話「自業自得は誰に向けて」

 森狩りとは、言ってしまえばモンスター退治のことだ。


「キミは剣も嗜むのかい?」


「文字通り、嗜み程度ですが」


 何が面白いのか興味深そうな目で王子様からしげしげと視線を向けられるがとりあえず放置しておく。


 魔法を使うつもりはない。

 エスペラートの近くに広がる森はそう大きくないし、この程度の規模なら大したモンスターは出ないだろう。それこそ子供でも倒せるレベルの。


 一応万が一に備えてエンリにも連絡してるし、大丈夫なはず。


「モンスターを倒せる剣が嗜み、ねぇ?」


「ご存じの通り俺の魔法は威力が足りませんから。基本的に魔力操作で相手を拘束して剣でトドメを刺す戦い方がベースなんですよ」


 適当にらしいことを言ってはみるが、表情を見るにあまり信じてもらえていなさそうだ、悲しいね。


「未来のモンスターを発生させたくないんだね」


「わかってて卵とはいえ魔法使いを集め森狩りをと提案したのなら、クルス王子は相当アレな方だと思っておきます」


「誓って学友と交流を深める以外に意図はないとも。だが、既に知っているキミを不快にさせたこと、謝罪しよう」


 ぺこりと頭を下げてきた王子様に内心でため息を吐きながら、周りでやる気になってるクラスメイトの姿を見てげんなりする。


 浅慮とまでは言わないが、モンスター退治を楽しみにするって感性は理解に苦しんでしまう。


 魔力ってのは基本的に有害なものだ。

 俺たち人間は有害な魔力を魔法として体外に発することができるから影響はないけれど、野生動物や植物には大きな影響を及ぼす。


「頭を上げてください。何処にただの学生へ謝る王族がいるんですか」


「ここにいるとも」


 ……まぁ、嘘ではなさそうだ。

 腹の中でどう考えているのかは別としても、誠実に返事はするべきだろう。


「モンスターを生まないために魔法を使うな、なんて現実的な話ではありません。これは俺たち人間が生きる上で一生付きまとってくる問題です。それこそ、王子が謝ったからどうなるものでもないのですから」


「辛辣で、正直だね、キミは。だが、感謝しておくよ」


 もう一度目で謝ってくれたクルス王子の背を見送って。


 そう、魔力は有害なものだ。

 魔法とは元々有害物質を体外へと排出する目的で生まれた手段である。


 つまり言い換えるのならば、人間が被害を受けないために自然界へと有害物質をまき散らしている存在と言えるだろう。


 未来のモンスターを生み出すってのは、魔法を使えず身体や組織の中から魔力を排出できない野生動物や植物たちが、人間のまき散らした魔力を取り込んで許容量を超えた結果そうなるからだ。


「戦争でバンバン魔法を使いまくってた俺に、んなこと言う資格はないんだけどな」


 爺さんが言った三年ってのは、戦争で使われた魔力がモンスターを生み出すだろう時期が三年後に訪れるだろうという見込みでもある。


 その日が人間同士の戦争から、人間とモンスターとの戦争へ時代が変わる日となるだろう。

 ならばその時、少しでもモンスターを新たに生み出さないようにするために、魔法以外で外敵を排除する方法が必要になるが、そういった技術が生み出されて磨かれるまでには多くの時間を要する。


 その時を迎えるため、少しでも犠牲者を減らせるよう回復魔法を、って。


「ガラじゃないな。サボってるのもなんだし、俺も――」


「きゃあぁぁあぁぁぁあっ!?」


 物思いに耽ってる場合じゃなかったらしい、気づけば周りには誰もいなかった。




「な、なんだよっ! なんだってんだよぉっ!!」


 走って向かえば腰を抜かしているクラスメイト達と。


「まさか、こんなモンスターがいるなんて、ね」


 皆を守るように、豚……? いや、イノシシがモンスター化したのか?

 モンスターとクラスメイトの間に立ちふさがるクルス王子の姿があった。


 確かにこんなモンスターが、だな。

 こりゃあどう見ても、でかすぎる。絵本かなんかに出てくるマンモスの子供かよ。


「エンリ」


「はっ」


 すっと現れたエンリにどうしてこうなったと聞きたいところだが、熱源感知をしてみれば同型のモンスター反応がちらほら感じ取れる。


 事前に排除できる数じゃないな、これは。


「周りのモンスターを頼む。アレは俺が何とかするから」


「承知致しました」


 忙しいところ悪いねと見送って、何とかするとは言ったがどうしたものかと頭を悩ませる。


 正直、敵じゃない。

 ただそれは極炎として言うのならって話だ。


 火炎魔法の腕を披露してしまって、変に注目され無理やり火炎魔法専攻の道にってのは避けたい。


 剣で倒すってのもな、学生離れを披露することに変わりはないだろうし困ったな。


「ぶもぉおおおおおっ!!」


「くぅっ! エア・スラッシュッ!!」


 ちゃんと立って相手ができているのはクルス王子だけ。

 クラスメイトで協力して魔法を集中させたのなら、倒せない相手じゃない相手だと思うが、残念ながら協力できそうな人間がいない。


「ん?」


「あわ、あわわわわわっ!!」


 おっと、いい感じにへたり込んでいない子発見って、ルルさんじゃないか。


「よっし。ルルさん、キミにはクラスメイトを助けたスーパーヒロインの称号を手にする権利をあげよう」

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