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第3話「早くも手遅れの気配」

「ルージュ・ベルフラウ! 前へっ!」


「はい」


 なんか妙に生温かい目を向けられている気がする。

 実技試験の順番待ち中に堂々と自己紹介タイムしてしまったせいだな恥ずかしい。


 後ろから感じる視線はちくちくするモノじゃなくなったからマシといえばそうだけど、後で覚えてろ。


「試験内容はこのカカシに得意な魔法を行使することだ」


「なんでも良いのですか?」


「構わない。一つ助言するのならば思いっきりやれということだけだ」


「わかりました、ありがとうございます」


 安直というかなんというか。

 全力だけ見て全てわかるとでも言うのだろうか? いやいや、学生程度なら十分と言えるのかも知れないが。一応王立、国が誇る最高峰の魔法学院だぞ?


「ルージュ君、がんばれ……!」


 頑張れって言われてもな。


「うーん」


 頑張っちゃったら多分この会場壊れるけどいいのかね。良くないね。

 一応念のため程度の防護魔法は発動してるみたいだけど、こんなの無いも同然だぞ。


「あれ?」


「――」


 試験場である円形闘技場をぐるっと見渡して見ればあの時のイケメンがいた。

 何やらニコニコと俺に手を振ってきてるけど何がしたいんだ。


「どうした、試験を放棄するのか?」


「あ、あぁ、いや、すみません。やります」


 思いっきり、ねぇ?

 回復魔法を覚えに来たんだし、火炎魔法を認められてしまうのは都合が悪い。


 とは言え火炎魔法以外に使えないし……。


 仕方ない。


「――フレイム・ウィップ」


「っ!!」


 思いっきり操作に重点を置いた魔法を披露することにしよう。


 威力は雀の涙、放出量は絞って、ひたすらに複雑な動きを。


「よ、っと」


 カカシに向かって炎の鞭を這わせ巻き上げる。

 最後の蝶々結びはオマケだ。


「これで、よろしいでしょうか? 試験官さん」


「う――む。みご――いや、十分だ。終わっていい。次っ!!」


「はひゃ! ひゃいっ!!」


 そうだよな、十分だ。

 才能の片鱗を見せつけられたのなら合格を出さない理由はない。


 ともあれ。


「頑張ってな」


「ルージュ君……うん、あたし、頑張るよっ!」


 応援のお返しをした後、指示に従って会場を後にした。




「ルージュ様」


「あー……おかしいとは、思ったんだよ。グループごとに全員が終わってから退出だったってのに、さっさと出されたのとかさ。まったく、思っていたよりも俺は爺さんに信用されてなかったらしい」


「この上なく信用されているから私だけの派遣に留まったのかと」


「前向きだね、じゃあ俺もそう思うことにするよ。それで? エンリの服を見るにだけど、ここの教員にでもなったか?」


 会場から出てすぐの通路で捕まったのは見慣れた部下の一人、極炎である俺直下の部隊、獄炎団団長のエンリ・ハーネットだった。

 元々美人だったけどこう、畏まった服とでもいうのか、教師然とした服を着ていると印象が全く変わるもんだな。できる女感がすごい。


「ご拝察の通りです。ルージュ様のフォロー、と言いますよりはバックアップを任されておりますのでいつでも申し付けください。とりあえず本日の寝床を温めておきますね」


「たった今、今日は野営するって決めた」


「初めてが外というのもオツなものです」


「……慎み深い女の人が好きだな俺は――はい、土下座はやめようか。周りの目が痛い」


 爺さん、絶対派遣する人選間違ってると思うんだけど?

 いや、これでエンリが見た目通りできる人間なら良いんだけどさ。


「失礼いたしました」


「いいよ。で? まだ受験者の一人でしかない俺に、何の用?」


「ご安心ください。声は、燃やしております」


「知ってる。でもこうして直接声掛けてきたら意味ないんじゃないかな?」


 そういえばわずかな沈黙の後にあっとしたような表情を浮かべて。


「計算通りです」


「計算通りだったかー」


 何をどう計算したのかは彼女のみぞ知る。


「と、ともあれ! 合格おめでとうございます。ルージュ様であれば当然の結果では御座いますが、イチの配下としてお喜び申し上げます」


「合格発表はまだだけど? なるほど。学院に極魔か国の関係者がいると」


「あ、あう」


「大丈夫、怒ってなんかない。エンリが来たんだ、獄炎としてだけじゃなく王国の配慮ってやつがあってもおかしくないだろうし、ありがたく思うことにするよ」


 こんなテストにもなってない試験をパスできないわけがないとは思っているが、今後の活動が一人でも十分、なんて思うほど驕っていないつもりだ。

 俺としては回復魔法を習得できたのならそれでいいんだ、環境を整備してくれるって意味でありがたく思うべきだろう。


「ありがとう存じます。ルージュ様を侮辱するつもりは欠片もございません。今期よりエスペラートは帝国の人間を受け入れることになったもので、国から一部関係者に向けて警戒を厳とせよと命が下されたのです」


「……戦争が終わって即、か。まだ条約締結から半年だってのに、仕事熱心なことだ」


「ある意味極炎のせいだからなと、極土様より伝言賜っております。条約の一文に文化交流が盛り込まれたのは、ルージュ様がエスペラートにいれば滅多なことにはならないだろうと首脳部は考えたようで」


「極土には俺がめちゃくちゃ謝ってたって伝えてくれ? いや、ほんとに」


 長期休暇でもあれば菓子折り持って尋ねに行こう、土下座も辞さない。


「改めて、ルージュ様にご連絡です。自己の判断で帝国との衝突を未然に防ぐ、あるいは発生しても良い落着を期待していると」


「了解。俺に調整を任せるなんてなぁ、首脳部はどうもヤキが回ったらしい」


「ルージュ様は火炎魔法の天才ですから」


「言ってろよ」


 面倒ごとは可能な限り避けたいけれど、わがままを聞いてもらってる身であることは十分に承知しているつもりだ、やれるだけのことはやる。


 けど、あんまりそっちを頑張りすぎてルージュとしての学校生活がまともに送れないようになっても困るし、考えて動かないとなぁ。


「んじゃ、いい加減傍目から見れば見つめあってる二人って構図は終わろうか」


「……キスでも、しておきますか? 私、初めては全てルージュ様にと心に決めておりました。優しくお願いいたします」


「間に合ってます」


「いけず、でございます」


 周りの視線を鑑みるに、もう手遅れかもしれないけどね?


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