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極炎の天才魔法使い、回復魔法に憧れる
極炎の天才魔法使い、回復魔法に憧れる
靴下香
異世界ファンタジー内政・領地経営
2025年01月07日
公開日
4.2万字
連載中
炎魔法を極め、戦争を終結に導いた英雄の一人、ルージュ・ベルフラウ。
彼は戦争で後方を支え続けた回復魔法に憧れ、身分を伏せて魔法学院へと入学した。
そこで目の当たりにしたのは戦争終結より一足先に平和を謳歌しすぎている生徒たちと、どうしてこうなったに潜む怪しい組織の影。

これは救国の英雄が、身分を隠してもう一度陰ながら国を救う物語。

第1話「回復魔法に憧れた天才魔法使い」

「ばっかもぉんっ!!」


 耳が痛い。

 別にやましいことも無ければ図星を刺されたわけでもなく、単純に声がうるさい。


「いやぁ、よく言うじゃないですか。老兵は黙して語らず去るのみだって」


「20歳は老兵って歳ではないじゃろうがっ!! というか辞めるの一言で辞められると思うか!? 極炎っ!!」


 辞められると思ったから話に来たんだけど?


「戦争は終わりました、平和条約も結ばれました。辞める辞めないの話ではなく、単純に俺みたいなやつの役割がもう無くなったという話です」


「むっ」


「違いますか? もっと言うのなら無用の長物と言って良いでしょう。今まで散々いいお給金を貰っては来ましたが、今後同じ額、あるいは待遇で囲われ続けるなんてこの国にとっては負担でしかない」


「愛国心溢れる言葉に聞こえるが、キサマが言うと胡散臭く聞こえるのが不思議じゃな」


 それは失礼しました、心にもないこと言うもんじゃないよね。


 じゃあ本音の部分を話しましょうか。


「戦争が終わったことでこれからは敵を倒す時代から、傷ついたものを治す時代に変わるでしょう。確かにまだ名残と言える魔力でモンスターは生まれるでしょうが、極炎の出番を必要とするほどじゃない」


「むしろ英雄の力を借りられると言う状況こそが、復興や発展の妨げになると」


 英雄と呼ばれることには未だに慣れないけれど、その通り。

 炎魔法を極めた存在なんて、どう考えても力になれないのだ。

 いや別に、国や人のために尽力してこそーなんて極水みたいな考えを持っているわけじゃないが。


「何にしても。追いたくなる先達の背中ってのは必要でしょうが、ガラじゃない。そう言うのは極水あたりに任せるとして、俺は別の道を探したいんですよ」


「都合よく極水を使いすぎじゃろ。あやつの気持ちも知らんで」


「知っているとは言えませんけど。少なくともアイツの国を想う気持ちは本物です、あぁ言うのが先頭に立ってこそ、ですよ」


「そういう意味ではないのじゃがな? まぁ、いいじゃろう」


 さっきとは別の意味でバカにされたような気がするけど、気にしない。


 俺としてはこの国に居るべき理由さえ無くなればそれでいいのだ。


「して? 別の道とは言うが極炎、キサマは何をするつもりじゃ?」


「回復術師になります」


「……はぁ?」


「いえですから。回復術師になるために宮廷魔法使い、極魔の座を返上し、魔法学校へ入学しようかと」


 幸い金はある。

 そりゃ、戦いに明け暮れて使う暇なんて無かったから? 貰うもんはバカみたいに溜まる一方だったし。

 入学金から卒業までの三年間、学費にも生活費にも苦労なんてしないし。


「い、いや、ちょっと意味がわからんのじゃが?」


「意味が分からんて。回復魔法を覚えるのなら学校に行くのが一番じゃないですか。一応俺、入学もしたことなければ当然卒業もしていませんし、入学に年齢制限もないでしょう?」


「ばかもぉん!!」


「二度目は勘弁してください」


「何処に国を救った英雄の一人が入れる学校なんぞがあるというのだっ!!」


 え? ダメなの?

 むしろ無駄に持ってる権力で顔パスとかならない?


「じゃあ大人しく入学試験を受けます」


「そういう問題じゃないっ!! キサマッ! 教師連中の胃を滅ぼす気かっ!!」


「まったくそんなつもりはありませんが。俺の使えない回復魔法を使える先生たちですよ? むしろ敬意を払って当然でしょう」


「見える、ワシには見えるっ!! キサマが、素人質問で恐縮なのですがーとか言って教師共の胃を破壊する光景がなっ!!」


 ちょっと意味がわからない。何言ってんのこの人。


「そりゃ、回復魔法分野じゃ素人なんですし。わからないことがあれば質問もしますが」


 当たり前だよな?


「……はぁ。聞くが、本当に意志は変わらんのじゃな?」


「はい。あの戦いで痛感しました。敵を滅ぼすことよりも、仲間を救う方が何倍も困難であると」


 傷ついていく味方、後方で繰り広げられる命を救うための戦い。

 もしも、後方へと下がる時間を必要としなければ救えていたかもしれない命があったこと。


 役割と言うものがあるのかもしれない。

 俺の役割は敵を倒すことで、味方を救うものではなかった。

 それだけの話なのかもしれない。


「そんな目を、するでない」


「本気ですから」


 だけど、もう敵を倒す役割を担う存在は不要になった。

 なら、次に必要とされた時に備え、回復魔法を覚えて味方を救いたい。


 それこそが、あの戦争で散っていった命に報いる方法だと思う。


「わかった。ただ、先も言ったが極炎という稀代の天才魔法使いを受け入れてくれる学校なんぞないじゃろう」


「……そう、ですか」


「じゃが、じゃ。ただのルージュ・ベルフラウであるならば、話は別」


「っ!」


 マジか。

 自分で言っておいてなんだが、これでも有名人な自覚はある。

 爺さんが言うなら俺って魔法使いを受け入れてくれる魔法学校は無いんだろう、それでも。


「極炎と言えば真っ赤な髪、それだけじゃ。極水や極風と違って他に特徴的な見た目もしておらんし、極魔の証である仮面も日頃から被っておった。それに凱旋パレードなどの公の場にもまったく出んかったキサマじゃ。髪型と色を変えれば、バレんじゃろうて」


「生んでくれた親と、過去の自分を褒めたいところですね」


 ただ単に面倒くさいだけだったけども。

 そういや自分の名前を誰かの口から聞いたのも久しぶりだったな。


「三年じゃ」


「三年?」


「約束せい。三年、キサマにやる。魔法学校は普通にやれば三年で卒業できるカリキュラムが組まれている。回復魔法を覚えても、覚えられなくとも構わん。三年経ったら、帰ってこい。それが条件じゃ」


「……わかりました、約束します」


 マジな顔を見るに相当譲歩してくれた結果がこの期間だろう。

 お国事情だ何だはわからないってか、興味ない。それでも受けた恩は、恩だ。

 きっちり三年で、今度は回復魔法を極めた者として呼ばれるようになってから帰ってくるさ。


「……火炎魔法で回復魔法の真似事ができるキサマにそんなもの不要じゃろうがな」


「はい?」


「なに、他の極魔たちへの説明が面倒くさいと言ったんじゃ、気にするな」

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