鈴木と早苗は悩んだ末、親族のみで海外挙式をすることにした。鈴木が部長になった今、どこまで社内の人間を呼ぶか迷ったこと、そしてあまりにも立場が上の人が来ると同僚たちにも気を遣わせてしまうと思ってのことだった。

新婚旅行を兼ね美しい海と空に囲まれた南国のリゾート地での挙式。現地のスタッフに全てを任せ、二人はただその日を心待ちにしていた。

挙式の準備は、早苗のウェディングドレス選びのみ。早苗は一人でいくつかのドレスショップを巡り運命の一着を探し当てた。鈴木には当日までのお楽しみだと言い内緒にしていた。

そして、ついに挙式当日。

青い空と白い砂浜、そしてどこまでも続くエメラルドグリーンの海。そんな美しい景色を背景に二人の愛を誓う時が来た。祭壇へと続くバージンロードを早苗は少し緊張した面持ちで歩き始めた。

純白のウェディングドレスに身を包んだ早苗は美しかった。周囲に合わせる控えめな早苗らしく選んだドレスはボリュームがおさえてあり細部にもレースの刺繍が施され繊細さとかすみ草のような可憐さを兼ね備えたものだった。

普段の姿も素敵だが、着飾った姿を見ることがなかったのでドレスに身を纏う姿を見た鈴木は思わず息を呑んだ。

祭壇の前で向かい合った二人は祭司の言葉に耳を傾ける。

「鈴木浩太さん、あなたは楠木早苗さんを妻とし、喜びも悲しみも、健康なるときも病めるときも、愛し、敬い、慈しむことを誓いますか？」

鈴木は、早苗の瞳をまっすぐに見つめゆっくりと、しかし力強く答えた。

「誓います」

その瞬間、鈴木の胸に今まで感じたことのないほどの深い感情が押し寄せた。早苗と夫婦になる。ただの形式ではなく早苗とこれから共に歩む未来を想像し胸が高鳴る。

「楠木早苗さん、あなたは鈴木浩太さんを夫とし、喜びも悲しみも、健康なるときも病めるときも、愛し、敬い、慈しむことを誓いますか？」

早苗も鈴木の瞳をまっすぐに見つめ優しく微笑んだ。

「誓います」

その瞬間、早苗の心にも温かい光が灯った。鈴木と夫婦になる。早苗にとって人生で最も幸せな瞬間だった。早苗は鈴木とこれから共に過ごす日々を想像し胸が愛で満たされるのを感じた。

二人は指輪を交換し永遠の愛を誓うキスを交わした。

参列した親族からは温かい祝福の拍手が送られる。

「おめでとう！二人とも、本当にお似合いだよ！」

「早苗さん、綺麗だったよ！浩太さんも、かっこよかった！」

親族からの祝福の言葉に二人は嬉しさを噛み締めた。

「ありがとうございます！」

「本当に、ありがとうございます」

二人は、笑顔で感謝の言葉を返した。

（夫婦になったんだ）

二人は改めてそう実感した。

（これからどんなことがあっても二人で乗り越えていこう）

嬉しさと照れくささでチラッと相手の顔を盗み見していたら目が合った。目と目が合う、それだけで幸せな気持ちになり固く手を握り直した。

挙式の後、二人は親族と共にリゾート地での滞在を楽しんだ。美しい海でのシュノーケリング、サンセットクルーズ、そして美味しい南国料理。日頃の忙しさを忘れゆっくりと流れる時間の中で、ふたりでいることを楽しんだ。

新婚旅行の最終日、二人はホテルの部屋のベランダからビーチを眺めゆっくりと過ごしていた。

「本当に素敵な結婚式だったね」

早苗は外の景色を眩しそうに眺めながらそう言った。

「ああ。なんかあっと言う間だったな。」

鈴木は早苗を優しく抱きしめた。

「本当。夢のようだった。でも浩太と結婚できて本当に幸せ」

早苗は鈴木の胸に顔を埋めそう呟いた。

二人はしばらくの間、言葉もなくただ互いの温もりを感じていた。

「神父さんに誓いますって言った時、改めて夫婦になったんだなって実感したよ」

早苗は少し照れくさそうに言った。

「ああ、俺も。これから一緒に歩んでいく日々を想像したよ。」

「ねえ？これからもよろしくお願いします」

早苗は鈴木の首に腕を回し見つめながら囁いた。

「よろしくお願いします。」

鈴木も応え、ギュッっと力強く抱きしめてから情熱的なキスをした。白い砂浜とエメラルドグリーンの海に反射して夕日の光が眩く照らしている。温かくも神々しい光を感じながら、二人は新婚旅行最後の夜を楽しんだ。