一緒に食べようと思っていた夕飯を温めなおして鈴木に出すと、嬉しそうな顔をして手を合わせた。
「ありがとう。いただきます」
食べながら日々のことを吐露する鈴木。
同じような内容の会議が多いが、フォーマットが違うため資料作りなど社内での処理に時間を取られているそうだ。
「今は着任したばかりで引継いだばかりだけどやり方変えていきたいな。効率よくするにはどうすればいいかな。」
答えを求めているわけではなく独り言のように呟いている鈴木。時折、相槌をうちながらも早苗は黙って聞いていた。
翌日も仕事のため早苗は泊まり、朝早く帰ってから出社することにした。鈴木が疲れている様子だったのと少し寂しそうな表情だったので帰りたくなかった。そして鈴木も帰ってほしくなかった。
その夜、二人は腕枕をしながら互いの体温を感じあった。
疲れた身体を癒すように軽く触れ合う指先。言葉はなくとも二人の間には深い愛情と信頼が満ちていた。やがてそのまま眠りにつき、布団の中は二人の体温で心地よく温まっていた。
翌朝、早苗はアラームの音で目を覚ます。
隣を見ると鈴木がまだ眠っていた。早苗は身支度を始めるため、そっとベッドから抜け出そうとしたが布団を動かしたことに気が付き鈴木が目を覚ました。
「おはよう。早苗、もう行くの?」
「うん、着替えやメイクしなくちゃいけないから一回帰るね」
「そうか……」
スマホで時間を確認したあと、鈴木は少し寂しそうに呟いた。早苗はその様子を見て少しだけ胸が痛み、軽くキスをしてベッドから出ようとしたが後ろから抱きしめられた。
「……あと10秒だけこのままでいさせて。」
鈴木が甘えてくることは珍しい。今まで悪戯げに微笑みくっついてきたことはあるが、小さな子どもが「ギュッして」と温もりを求めねだるような言い方が切ない。
余裕をもってアラームをかけておいたので、30分以上は時間がある。
『なんだか離れがたいな……。このまま帰りたくないな』
早苗は体の向きを変え、浩太に向かいあうと首に手を回し絡めあうように密着してからキスをした。今度は先ほどのような軽いキスではなく唇の感触を味わうようなゆっくり丁寧なキスだ。
浩太も早苗の背中に手を回すと、早苗の柔らかな髪が頬をくすぐり吐息が耳元をかすめる。 早苗の首筋に顔を埋め、甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「浩太、かっこいい。大好き。」
鈴木は思わず頬を緩める。早苗は疲れ切って甘えてきた鈴木が愛おしくなり、頭や頬、首と全身を包み込むようにゆっくりと撫でる。徐々に鈴木は身体の力が抜け脱力していく。
「毎日お仕事おつかれさま」
誰の言葉よりも今この瞬間のおつかれさまが鈴木の心に響き、ふわっと軽くなった。
「ありがとう。なんかまた頑張れそう」
「良かった」
カーテンから陽の光が照らす中、二人はぴたりと抱き合って微笑みあう。今度は鈴木から舌を絡ませ長い長いキスをし二人は身体と体温と吐息を混じり合わせた。