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第50話 はじめての旅行

早苗と鈴木は、初めての旅行に出かけることになった。

夏休みの値段が高い時期ではあったが、二人でゆっくりと過ごす機会はなかなかない。



「どこに行こうか?」

鈴木がそう尋ねると、早苗は少し考えてから言った。


「前に二人で調べた温泉街、覚えてる?」


「ああ、覚えてるよ。3月に行く予定だったところだろ?」


「うん。あの時は温泉にゆっくり浸かりたい気分だったけど、今は夏だし温泉よりも観光を楽しみたい気分だな」


「なるほど。じゃあ、旅館じゃなくてホテルにしようか。近場で観光も楽しめるホテルを探してみるよ」


「うん、ありがとう」


二人は、3年越しの旅行に心を躍らせた。



旅行当日、二人は車に乗り込み、目的地へと出発した。この日も車内では、音楽をかけて歌ったり色々な話をする。日頃、会えない時間を埋めるかのように二人の会話は尽きなかった。



ホテルに到着すると、二人はすぐに観光へと出かけた。まず訪れたのは鈴木がずっと本物を見てみたかった松本城だった。



「わあ、すごい!これが松本城か」

鈴木は、黒と白のコントラストが美しい城の姿に目を奪われた。


「かっこいいね。お城に来たのは初めてかもしれない」

早苗もその荘厳な佇まいに感動していた。



「中に入ってみよう」

二人は、城内を見学することにした。 急な階段を上り、狭い廊下を通りながら、当時の様子を想像した。


「昔の人は、こんなところで生活していたんだね」


「うん。戦いの時は、ここが戦場になったんだと思うと、感慨深いね」


天守閣からの眺めは素晴らしく松本市街が一望できた。



「本当に素敵な景色だね」

「ああ、来てよかった」

二人はしばらくの間、景色を眺めながら歴史に思いを馳せた。



城を出ると、二人は城下町を散策した。

古い町並みが残る通りには、レトロな雰囲気で趣のあるお店が並んでいる。



「何か食べ歩きしようか」

二人は事前に調べた、たい焼き屋にいった。



「暑い日のたい焼きも美味しいね」

そう言いながらも暑さに負けてソフトクリームも買い、熱々のあんこたっぷりのたい焼きとソフトクリームの温度差を口の中で楽しんだ。



食べ歩きをしながら、二人は色々なお店を覗いた。 伝統工芸品のお店や地元の食材を使ったお店など、見ているだけでも楽しかった。


食器を店先で販売もしており、求めやすい価格でマグカップや器が置いてある。豆皿は3つで100円と破格で早苗を魅了した。



「あーー、これ欲しい。どれも素敵で色々と欲しくなっちゃう。」


「のんびり選んでいいよ」


「まだ時間かかりそうだから、どこか気になるところあったら見てきて」


「それなら、実家にお土産でも見てこようかな」



そう言って目の前にあるお土産屋を指さし入った。実家への土産は、信州みそを使った煎餅を選んだ。土産なんてあまり買うこともなかったので、何にしていいか分からずとりあえず地域の名産品にした。



店先に戻ると、先ほどの食器の店に早苗がいない。どこへ行ったのかと辺りを見渡すと紙袋を3つ持った早苗の姿があった。



「いっぱい袋持ってるね。何買ったの?」


「ん?お小皿と箸置き。あと、これも良かったらご実家に持って行って。」

そう言って、地元で有名店のバームクーヘンを鈴木に渡した。



「え?早苗も選んでくれたの?」


「うん。美味しそうで見ていたら食べたくなっちゃって。ホテル戻ったら浩太と食べる用も買っちゃった。」


「ありがとう」

照れ隠しのように店の紙袋で顔を隠しているが、実家の分を選んでくれる優しさが嬉しかった。



その後もクラフトビールの店で立ち飲みをしたり、夕食は地元の食材を使ったレストランで産地のものを楽しみ旅を満喫した。



ホテルに戻り、バームクーヘンを食べながら二人は部屋でゆっくりと過ごした。



「ねえ、浩太」


「ん?」


「また一緒に旅行に行こうね」


「ああ、もちろんだ。今度は寒い時期に旅館へ行こうか」



「……3年越しの旅行、叶ったね」


「ああ、長かったな」


「浩太と一緒に来れて良かった。」


「俺も。」



鈴木は、早苗の手を握り優しく微笑む。二人は、互いの顔を見つめ合い幸せな気持ちでいっぱいになった。これからもずっと一緒に色んな思い出を作っていくのだろう。 そんな未来を思い描きながら、二人は距離を縮めお互いの熱を感じあった。



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