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第12話 一時帰国と初めての旅行

「3月上旬に一時帰国で1週間の休みが取れそうだから、どこか旅行にでも出掛けない?」鈴木からのメールに業務中だったが、嬉しくてすぐに「行きたい」と返信した。



以前より長文のやり取りが増えたことで、物理的な距離は離れているけれど心の距離は以前と変わらない。むしろ近くなった気がすると感じていた。会いたいと思うけれど、平気。と思っていた。


しかし、帰国のメールを見たらやっぱり嬉しい。

もし私が今、犬になっていたら舌を出して尻尾を振り回し何週もその場を回ったりジャンプしていただろう。そんな姿を頭の中で想像し、笑いを堪えた。


『まずい…。今は仕事中だ…今からは切り替えないと。』



そう言い聞かせていたが、次に会うときは旅行かと思うとどんな場所に行こうか、何をしようか、色々なことを想像し始めた。


『海外だとシャワーだから広々と足を伸ばせる温泉とかどうかな?久々の日本だし、和食が美味しい宿に行くのもいいかも。』



先ほど切り替えないと、と言い聞かせたが今週は業務も忙しくない。

こっそりインターネットで観光地の情報を検索した。


カップルで行く初めての旅行特集というページがあったが、会社のパソコンで見るのは気が引けるのでサイト名だけメモをしてスマホに送った。

そのあとはカップル特集ではないページで旅行の情報を探し続けていた。


表情に出ないよう意識して、テーマパーク、イルミネーション、温泉旅行、アクティビティなどたくさんの候補が出てくる。


『うーん、やっぱり温泉かな。移動時間も長くて疲れるだろうし、和食が恋しくなっていそうだもんな。』


旅行予約サイトで宿を探す。

『大人2人、一泊二食付き、禁煙…オススメ順にして…検索!!』


一番最初に出てきたのは、ラグジュアリーなハイクラスの露天風呂付の客室だった。

『お風呂付きの客室……。部屋に会ったら絶対入る雰囲気になるよな…。ここはなし」

身体の関係はあっても、お風呂に一緒に入るのはなんだか照れ臭い。

着替えて下着を脱ぐところや身体を洗うところは見られたくなかった。そして明るい場所で視線のやり場に困りそう…。などいろんな妄想をしていた。




その日の夜、早苗は鈴木と電話をした。

「おつかれさま。帰国日、決まったんだね!旅行の誘い嬉しくてすぐ返信しちゃった」

「良かった。送ったばかりなのに通知きたからビックリした。仕事しろよw」

「普段はしてるよ、でも今日はあの後ネットばかり見ちゃってた…」



早苗が嬉しそうに話をしてくるので鈴木は嬉しかった。そして密かに誓った。

『出発前は、準備に気を取られていてそれどころではなかったもんな…。楠木も遠出はやめておこうって言ってたから甘えたけど本当は行きたかったんだろうな…。帰ったら楠木がやりたかったこと全部やる勢いで叶えよう』




それから早苗は暇さえあれば旅行の情報を探した。気になった場所はスマホやパソコンに

お気に入り登録をして鈴木にURLを送った。鈴木も、最初は「楠木が好きなところでいいよ」と言ってくれていたがそのうち温泉宿にしよう、この店気になるなど積極的にやりたいことを言うようになった。



出発から1か月半しか経っていなかったが、付き合う前も同期として週5日は顔を合わせていたのでこんなに会わないのは初めてだ。帰国日が決まってから、連絡の回数も少し増えた。そして電話の口調も一段と明るくなり、二人は久々の再会と旅行に舞い上がっていた。



しかし、この後そんな二人に予想もしなかった悲劇が襲う。そして、その悲劇は今後の二人の運命を大きく変える出来事となることを、まだ知る由もなかった。





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