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第11話 異国の地①早苗の視点

鈴木が出張に行ってからもうすぐ1か月が経つ。


出発は1月だったが、親会社は日本にあるため来期から本格始動することになっていた。

1月から3月は準備期間とされており、住む環境の整備や現地協力企業の職員たちとの親交を深めるため外食が多いそうだ。



送られてくる写真には、見慣れない料理や異国の風景が写っており、鈴木から送られてくる写真を見るのが早苗にとって日々の楽しみの一つになっていた。

エキゾチックな街並み、色鮮やかな料理、見たこともない植物…

時差も2時間なので生活リズムが大きく変わることはなく、メールや時には電話をした。



今の時代、スマホがあれば遠い場所にいてもやり取りができる。時差も少ないのでお互いの生活リズムを大きく崩すことなく電話をすることも可能だ。頭では分かっていたが、こうして国をまたいでの遠距離恋愛となると今まで以上にありがたさを感じた。



『あぁ…文明の利器、科学の進化ありがとう!!!』

発明者の名前が分からなかったため、大きくまとめてすべてに感謝をした。



日本にいた頃は「おはよう」「おやすみ」「今日遅くなる」「一緒にご飯食べない?」など一行で終わるような簡潔なやり取りがほとんどだったが、海外に行ってから長いやり取りが増えた。今はお互いのことを気遣う言葉や、感情を表現する言葉が増えた。

顔を合わせられないない分、物理的な距離を言葉で埋めようとしているかのようだった。

早苗は、やり取りが増えたことが嬉しかった。



鈴木と離れてから、ある変化を感じていた。

学生時代に遠距離恋愛をしていた元彼の時には感じなかった「早く逢いたい」という気持ちが日に日に増していった。そのあと付き合った大学時代の彼は、相手が何をしているか分からず不安になる時もあった。しかし、今回は違った。


不安や苦痛ではなく、喜びを伴うものだった。

付き合っている相手に興味を持てなかったり、不安になっていた今までとは違う。

「鈴木なら大丈夫。鈴木ならやり遂げられる。鈴木ならうまくいく」自信を持ってそう言えた。そして、飛躍した姿をこの目で見たいという明るい気持ちが「早く逢いたい」に繋がっていた。



一方で、機械を通してではなく直接、鈴木に会いたいと思う気持ちも芽生えていた。

画面越しではなく、直接、鈴木の声や表情・ジェスチャーを加えての話が聞きたい。

部屋で一緒にご飯を食べながら、出向先の話や食べ物・景色など日本との違いを知りたい。

抱きしめて鈴木の体温を感じたい。鈴木の胸に身体を預けて、触れて、普段の電話とは違う声や表情に酔いしれたい。電話やメールでは伝わらない、温もりや息遣いを感じたい。




自分にもこんな気持ちが芽生えるのかと驚いた。鈴木と付き合って、初めて本当の意味で「恋」をしているのだと気づいた。


鈴木との時間を、心も身体も欲していた。いつしか鈴木と過ごす生活が日常の一部となっていた。充実はしているが鈴木がいない生活はどこか物足りなく色褪せて感じられ、次に会える日まで自分も頑張ろう。


鈴木の一時帰国した時を夢見ながら、異国の地で一人で頑張る鈴木の成功を心から願い早苗は眠りについた。



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