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.Ⅲ05..sn30

 以降の活躍は語るまでもない。死の果てまで、この街の果てまで追われた目黒ヤクザ御一行は、死よりも恐ろしい追撃を食らって、街から逃げ出した。その夜の活躍は街から街へとその称賛が響き渡り、その名は、即興で名乗ったチュウカという名前は瞬く間に轟いていった。チュウカ、チュウカ。この街そのものの存在で、街を守る絶対的守護神。どこかの刑事も楽しいお酒の席で話題にし、好き勝手に吹聴していたとか。その噂の回り具合は、この裏街への浸透速度は光を超えていたのではないかと言われるほどらしいが、チュウカは光の速さなんて知らなかったのでよくわからなかった。



 ここは裏街なんて呼ばれるような街だから、他にもたくさんヤクザが住み着いている。多少の暴力はある。だけど、好き勝手にやっていいわけではなかった。好き放題にして良いことは、何一つ無かったのだ。勘違いしたのだ。自分をなにか勘違いしたのだ、彼は。今でさえここ街における絶対的なチカラを手にし、縦横無尽に飛び回り、駆け巡っているチュウカでさえ、好き放題に好き勝手にはやっていない。暴れてはいるものの、それは街の人間のためだ。チュウカの敵は街の敵。街の敵はチュウカの敵。街全体を揺るがすような時には必ず現れる。なぜならチュウカは街そのものだから。彼女に、あの悪魔に託されたこの街そのものという存在だから。



 それが少し前の話。昔話ってほど昔じゃないけど、普通の人間の時間感覚なら少し昔のことだってアキラみたいな奴は言っている。



「やあ、チュウカ」


「よお、アキラ」


「どうだ。飯でも食っていくか?」


「別にいいけど。そんなことしても俺は誰にも尻尾を振らないの知ってるだろ。助けることも、助けようとすることもない。期待するなよ」


「はいはい。ほら、入れよ」


「おじゃましまーす」



 アキラの店も目黒ヤクザ御一行にかなり嫌がらせされていたらしく、店の前をたまたま通りかかったチュウカを引き留め、お礼をしたことから顔見知りになった。だからあの一件から親しくなった人間の一人なのかもしれないが、もちろん本人に自覚はない。チュウカとしては当たり前のことをしただけで、敵であって排除すべきだったから倒しただけだった。変わったことと言えば呼び名くらいか。チュウカ。周りが俺を呼ぶときに使う名前が変わった。それくらいかな。



 街は今日も虚ろ。白熱灯とネオンのエルイーディーが点滅して、人々を誘う。酒に、食に、性欲に、強欲に、自我欲に。



「なんだ、外が騒がしいな」


「喧嘩だ。面白そう、ケケケ」


「おい、チュウカ。あまり派手にやるなよ」


「まあ、そうだな。ほどほどにするよ。ジロ……じゃないか、アキラに迷惑かけても仕方ないからな」



 チュウカは大急ぎで食事をかきこんで済ませると、得物を持って店を飛び出し、今日も街と人々を混沌に陥れるべく、参戦していくのだった。



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