クロは飛んだ。その街の裏側を。裏街の裏の裏側にある裏山。そこの誰もしれないひっそりとした場所に小さな墓がある。クロは飛び降り、近くでとってきた花を供えた。変わりに古く錆びついた、いつの日にか立てたでかい墓の目印を抜き取った。ここにこれを突き刺したのはⅢrdの物語の数行前なんだが、まあ、それはご都合だ。
「これはしばらく借りていくぜ、ジロ……ああ、ジルか。またな、師匠」
それは墓の目印に突き刺していた鉄の塊だった。引き抜いて良く見てみると、それは剣のようでもあった。大剣のように見える。墓を立てる時に使った。そしてジロがこの武器を使うクロのことを、チュウカと呼んでいたのだった。それは中華包丁を大きくした風体で、まるで偽物の中華包丁のようだと、笑っていたのをクロは覚えていた。偽物中華包丁を抜き取った代わりにスコップを突き刺し、そして再び手を合わせると、大剣を背にかけて、仁王立ちで師匠のジロに向かって言った。
「じゃあ、行ってくる」
クロはまた街へと飛んでいった。
※ ※ ※
裏街は夜になった。すっかり日が落ちて真っ暗。しかし街はかえって明るくなって、つまり照明やネオンで轟々と神々しく照らされていた。
そのメイン通りに八百屋はがある。そのご主人はもうほとほと困っていた。今日もまた現れたヤクザが、そのヤクザがさっきから店の前を占領していた。この時間になると、八百屋ではなく、もはやフルーツ屋なのだが、しかしどちらにしても状況は変わらない。
ここ最近のこの街に出入りしている人間ならば、このヤクザたちを知らない人間はいない。その名前は裏のこの街では最大限に幅を利かせている。そういうヤクザだった。だから、誰も手を出せない。逆らえない。そう思っていた。商品のフルーツを言われるがままに切り分けて差し出し、その残骸を店の前に投げ捨てられる。店主は怯えながら拾って片付ける。男は店先の品物台に腰を据えて座り込み、幾人かの弟子と有意義に過ごしていた。
そこにクロはやって来た。
「おいおい、うまそうだなぁ、そりゃあ」
声がした。しかし姿は見えない。目黒という男と周りの男は、訝しむようにキョロキョロと、少し周りを見る。
いつの間にか空から現れ、なぜ声が聞こえていたのか分からないままに彼は着地。八百屋の前に、弟子とヤクザの間に入った。
クロは八百屋やや後方の、メイン通りど真ん中に着地した。
「うまそうじゃないか、フルーツ。俺も欲しいぜ」
「いきなりなんだ、小僧。誰だよ、お前」
抜刀。構える。クロは問いに答える。
「俺か? 俺の名前か? ずっとクロって呼ばれてたがそれは師匠の時代の名前だ。師匠が死んだから名前もきっと死んだ。そうだな、今この場で名乗るとしたら、この武器だから」
俺の名前は、チュウカだ。
よく覚えておけ、三下。