目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
.Ⅱ09..sn24

 闇の風が吹いていた。黒く、濁りきった闇の風が吹いていた。二本の刀音が響く。影の悪童とチュウカは互角。周囲の人間は見守るばかり。手出しは愚か、もう声を出すことさえも憚られた。



「諦めろ。お前じゃ俺には勝てない。闇に屈しろ。全てを委ねろ。チカラを求めろ。お前のチカラになってやる」


「俺はてめえなんかに、自分なんかには屈しない。誰が自分なんかに尻尾振るかよ。俺はこの街そのものだからな。たとえ闇に呑まれたとしても街が消えることはないし、俺自身が消えることもない。名前が変わろうと、命を狙われようと関係ない。一度は死んだ命だが、気まぐれで救われた命だが、生きているかどうかすら曖昧だが、契約だからな。ここは俺の街だ。何かに頼るつもりも、委ねるつもりもない。チカラならとうの昔に手に入れている。今さら貰うものはない。だからお前に用はない。とっとと消え失せろ」



 チュウカは蹴り飛ばして隙を作り、すぐにその距離をゼロに詰めて斬った。チュウカの闇は、一時の流行的に影の悪童と呼ばれた闇は、黒の木刀でぎりぎり受け止めた。しかし、チュウカはその偽物の木刀に足をかけ、そのまま踏み折った。チュウカ最大の鉄の武器は闇を二つにした。



「じゃあな、この街の闇。影の俺様よ」


「残念だ。なに、また会えるさ。俺はお前だからな」



 チュウカの一撃を受けた闇は、影のように消えた。観衆からは驚き、困惑し、どよめきが起こったが、しかし、偽中華包丁をくるくると回し、背に背負い直したチュウカを見ると、大拍手が起こった。皆が駆け寄った。



「やったな」


「よお、アキラ。こいつ投げてくれてサンキューな」


「重かったぜ、まったく。腹減ってないか? 飯でも食っていくか、チュウカ」


「ああ、ご馳走になるよ」



 こうして影の悪童と呼ばれた存在は一時的に消え、闇との激闘を制したチュウカがひとり、夜の店へと消えていったのであった。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?