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第11話

「くくくく、ひどい言われようだ」


 ベルヴェイクが腹を抱えて笑う。


「君はずいぶんと強気だけれど、それでいいのかな? 自分で空を飛ぶ技術は持ち合わせていないようだが、ここで争いになってしまったら、なんて考えはしないのかい」


「あなたはまだわたしで遊び足りていないでしょう? ここで争ったって得しないもの」


 サクラが呆れながら言うと、ベルヴェイクは鼻で笑った。


「違う、違うな。たしかに、私は君に生きていてもらった方が都合がいい。だが……」


 ベルヴェイクの視線がアリエノールに向けられる。


「竜のお姫さまがどう思っているかはわからないぞ」


「……それは、どういう意味でしょうか?」


 ニヤニヤと意地悪く笑っているベルヴェイクに、サクラは緊張しながら尋ねた。


 ──まさかこの男、ここで私が稀人だっていうことをアリエノールさまにばらすつもりなの?


 万が一、ここでサクラが異世界からやってきた者だとアリエノールに知られてしまったらどうなるのか。

 アリエノールは、最愛の者を稀人に殺されたばかりだ。

 サクラに危害を加えてくる可能性は否定できない。

 さすがに、この高さから落下して地面に叩きつけられてしまったら、助かるという保証はどこにもない。



「サクラが稀人だということを言っているのなら、心配していただかなくて結構だ。そんなことは承知の上だからな」


 アリエノールがはっきりとした口調で言った。

 その言葉に、ベルヴェイクはぴくりと眉を動かす。


 ベルヴェイクにとって、アリエノールの言葉は想定外だったようだ。

 彼は途端に、不機嫌そうに顔を歪める。


「へえ、知っていたのか。ならば、どうして彼女を生かしておくのだい? 君の最愛の者を殺した男の同胞だぞ」


「あの男とサクラはまったく別の存在だ。恨むのは筋違いだからな」


「だとしても、稀人には違いない。この世界の王になりたい君にとって、邪魔な存在だろう?」


「そうか? 私にはサクラが王となることを望んでいるようには見えないがな」


 サクラの存在は置き去りで、アリエノールとベルヴェイクがけんか腰で会話を続ける。

 サクラはアリエノールが自分の素性に気がついていたと知って驚き、固まってしまっていた。


「本人が望まずとも、高き者たちがそう望んでいる。望まれているからこそ、魂が流されてくるのだ」


「たかだか先王の子だったからと、大樹の代弁者にでもなったつもりか。片腹痛いわ」


「先王の子だったからこそ、この世界で誰よりも高き者のそばで声を聞いていた。田舎者で引きこもりのお姫さまにはわからないことだろうがな」


「どうだかな。どうせ貴様は次の王に指名される自信がなかったから出奔したのだろう? だから王たる資格を持つ者に嫉妬しているのだ。こうして、まだこの世界に流れ着いたばかりでなにも知らない者に、ちょっかいをかけて憂さを晴らしているのだ」


 アリエノールが馬鹿にしたように笑う。

 サクラには二人の会話の内容は理解しきれなかった。

 しかし、アリエノールの言葉がベルヴェイクにとって図星だったということだけは伝わってきた。


「……引きこもりの田舎者が。ずいぶんなことを言ってくれる」


「これで怒るのはあまりに心が狭いぞ。ああ、だから逃げ出したのか。器の小さな者が王にはなれないからな」


 アリエノールがあっけらかんと言ったあとに、がははと笑う。

 サクラにはベルヴェイクがブチ切れた音が聞こえた気がした。

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