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第8話

 サクラの頭の上に雷が落ちる、その瞬間。

 左手に持っている武器が、大きく光りを放った。

 黄金に光り輝きながら交差する二つの円が、サクラの全身を包み込む。


 アリエノールの雷は、サクラのからだには直撃せず、二つの大きな円に吸収された。

 黄金に光り輝いていた二つの円に、アリエノールの赤い雷の力が蓄積される。


 黄金の円が雷を帯びた。

 バリバリと、周囲に響くほどの激しい音を立てはじめる。


「二人とも引きつけてくれてありがとう! あとはわたしに任せて下がって!」


 サクラは全身を黄金に輝く雷を纏ったまま、奏多の元へ突っ込む。

 奏多の注意を引きつけていた警備兵の二人が、サクラの声かけで後退していく。


 ──いま何秒だろう? ゲームのプレイ中とは違って、冷静にカウントなんてできないよ。お願い、間に合って!


 サクラの使用している武器。

 左手に持つパタは施している派生によって、聖属性が付与されている。


 光り輝く二つの大きな円は、触れたエネルギーを吸収する。

 これが発動中のあいだは、プレイヤーキャラクターは大幅にダメージが軽減される。

 そして、発動中に吸収されたエネルギーは、60秒後に大爆発を起こすのだ。




「──っぐううううううう! ああああああああああああ‼」


 サクラが警備兵に声をかけた直後。

 奏多の攻撃対象は、サクラに変わった。

 彼はもうまともに思考ができない状態だ。

 近づいてくる者へ、手あたり次第に魔法で攻撃をしてくる。


 呪いの蓄積による発狂状態の奏多は、ステータス値が上昇している。

 本来ならば使えないはずの高速詠唱を使い、高位の攻撃魔法をサクラに向かって放ってきた。


 しかし、奏多の魔法攻撃は、黄金に光り輝く二つの円に吸い込まれていく。

 それでも、サクラ自身にダメージがないわけではない。

 だが、怯んでいては60秒の効果時間内に奏多の元へ辿り着けない。





「……うううう。ああ……なん、で……。どう、して……?」


「これだけ広場をボロボロにした雷のエネルギーを吸収した聖属性の攻撃だからね。呪いなんて簡単に解けちゃうよ」


 サクラのパタの切先が、奏多の顔の前に届いたとき。

 黄金に光り輝く大爆発が起きた。


 黄金の輝きは、あっという間に広場全体を包み込む。

 しかし、この爆発によるダメージを追ったのは奏多だけだ。

 この攻撃を使ったサクラや、そばにいるアリエノールや警備兵の二人は無事である。


 サクラが左手に持つパタの特殊状態における爆発は、聖属性を持っている。

 聖なる力の大爆発なので、爆発の範囲内にいても物理ダメージが入らない。

 その代わり、状態異常に陥っている者には、大ダメージを与えるのだ。


 いまこの広場にいる者で状態異常を起こしているのは、呪いによる発狂状態の奏多のみである。



「……正気に、戻れたのかな?」


 サクラの起こした爆発で、奏多を包み込んでいた呪いの黒炎が吹き飛んだ。

 黒く燃えていた奏多の目からも、すうっと炎が消える。


 だが、サクラが予想していた通り、奏多の瞳に光は戻らなかった。

 彼の目は、黒炎によって完全に焼け爛れてしまったのだ。


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