広場全体が、轟音と共にひっきりなしに揺れている。
サクラがクロビスに回復魔法をかけられている間、広場には何度も赤い雷が落ちてきていた。
「……っく! ここまでアリエノールさまがご乱心していらっしゃるのは珍しいな」
「そりゃあ、大事な大事な腹心の部下がやられちゃ黙ってられないだろうさ!」
警備兵の二人が、広場の上空をみつめている。
雷が周囲に落ちてくる様子を眺めながら、苦笑いを浮かべていた。
「だからって限度があるだろ! 誰がコレを片付けると思ってんだよ」
「この戦いのあとの心配をするなんて、お前はずいぶんと余裕だなあ」
警備兵の二人は、落雷ごとに巻き起こる突風で吹き飛ばされてくる広場の石畳みを、剣で叩き落としている。
そうやって、落雷による被害からサクラとクロビスを守ってくれていた。
「……本当に、こんなに取り乱すなんてアリエノールさまらしくない。我らが主らしく堂々となさっていてほしいものですね」
クロビスが大きく息を吐きながらぼやいた。
回復魔法の詠唱を終えたクロビスは、仮面を外して大量の汗を拭っている。
「治療ありがとう。おかげですっかり良くなったわ」
サクラはゆっくりとからだを起こすと、肩で息をしているクロビスに礼を言った。
サクラが微笑みかけると、クロビスは汗を拭っていた手を止めて仮面をつけなおす。
「良くなっていただかないと困ります。これで私の魔力はほぼ空になりましたから。次はためらわずにあの男を仕留めてくださいね」
「……ええ。あなたの魔力がからだの中に入り込んできたおかげで、いますごく心があたたかくて安定してるの。覚悟が決まった」
「それはとても喜ばしいことかもしれませんが、その言い回しはやめてください。邪念がうまれてしまいます」
真面目な声色で言うクロビスに、サクラは呆れた顔をしてため息をついた。
「……はあ、魔力が空とか言ったくせにさ。けっこう調子よさそうじゃない?」
「いいえ、馬鹿力のあなたと違って私は繊細なのですよ。言葉には気をつけてください」
仮面で顔を隠されてしまったが、クロビスは馬鹿にするように笑っている気がする。
サクラは頬を膨らませて拗ねたふりをしてみせた。
すると、空から声が聞こえた。
「なんだ、治療の時間くらい稼いでやろうとわざわざ来てやったのに。礼もなくじゃれ合い始めるとはいい身分だな、クロビス?」
空から人が降ってきた。
いや、正確には人ではない。
人型ではあるが、種族でいえば竜人だ。
「私が頼んだことではございません。アリエノールさまご自身のご判断でしょう?」
「憎まれ口が叩けるなら、もうよいな」
背中に生えた翼を羽ばたかせながら、広場に降り立つ美しい女性。
この城の主、領主のアリエノールが姿をあらわした。