「……あんた、プレイヤー? まさか転生しても侵入ありってわけかよ」
「残念だけど、そんな感じみたいね」
目の前にいる魔法使いの男はもしや話ができるタイプなのか、サクラはそう思った。
──でもな、用意周到に襲撃の準備をしていたようで、この場でいきなりクロビスを処分しようとした相手だもの。ましてや、ステータスを極振りをするようなタイプなんだよね。
だからといって、落ち着いて話ができるような相手ではない、そう判断するには早かっただろうか。
「……ねえ、あなた……」
サクラが話をしようと、魔法使いの男に声をかけた瞬間だった。
こちらに向かって、青白い火球がいきおいよく飛んできた。
サクラはそれをみつめたまま、避けることはしなかった。
──そうだよね。そういう極端なステ振りするやつは人の話なんて聞かないのよ。自分で決めたこだわりが強すぎる、プライドが高い連中だもん。
サクラのうしろにはクロビスがいる。
この程度の攻撃であれば、クロビスは避けてくれる。
そうは思ったが、あえてサクラはクロビスを守るように立ちふさがったまま、青白い火球を真正面から受け止めた。
サクラはパタを握った拳を、力強く前に突き出す。
その剣をかざした勢いだけで、火球は霧散した。
サクラのもとには、ほんの少しだけあたたかな風が届く。
「……ふーん、やっぱりな。パタって通常の剣モーションじゃないから、ジャスガするのなんて難しいはずだけどな。性能ガン無視で装備決めてるような人なら、こんな火球くらい避けずに真っ正面から軽くあしらえるよなあ」
ああ面倒くせえ、魔法使いの男はそうつぶやきながら顔をゆがめている。
ジャスガ。
ジャストガードとは、防御技や回避技の一つだ。
パリィや受け流しといった言葉と、ほぼ同義である。
通常は相手の物理攻撃を防ぐといった意味合いで言われることが多い。
相手の攻撃に合わせて特定のタイミングで防御行動を取ることで、被ダメージを軽減することができる。
また、攻撃そのものを無効化したり、そこから派生して追加効果を得たりと、通常ガードでは発動しないさまざまな恩恵を得られる便利な技だ。
サクラのパタは、特殊派生を行っている。
防げるのは物理攻撃だけではない。
大火力の魔法攻撃でなければ、たいていは受け流すことが可能なのである。
サクラは魔法使いの男のことを変態などと言ってしまっていたが、ようやくそれがブーメランだったと気がついた。
心の中でそれを苦々しく思いながら、男に向かって声をあげた。
「あら、奇遇だわ。私だってあなたを相手にするのは骨が折れるなって思っていたところよ」
「挨拶も済んだことだし、あとはもうどっちが最後まで立っているかって話でいいでしょ?」
「そう、ね。ゲームの中ならそれでもいいと思うけど……」
サクラにとって、ここはもう現実だ。
簡単に命のやりとりをするには抵抗がある。
しかし、魔法使いの男には、そんなサクラの気持ちは届かない。
「ここは俺の世界なんだよ。侵入者のおばさんにはさっさと出ていってもらうよ」
「──はあああああ! おばさんってひどくない? てか、俺の世界はイタすぎない?」
「あ、もしかしてネカマの人? よかったじゃん、転生して女になれてさ」
「もとから女だっつの! ふざけるのも大概に……」
サクラが大声をあげていると、魔法使いの男の杖の先端が光だす。
「──ッチ! 悪いけど、詠唱はさせないわよ」