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第2話

「………………………………アリエ、ノール…………」


 間に合わなかった。

 サクラが広場にたどり着いたとき、そこに立ち塞がっているはずの親衛騎士の姿はなかった。


「……ロークルさま……」


 サクラが目にしたのは、地面に倒れたロークルの姿だった。

 全身を焼かれ、ボロボロの姿をしていた。


 ゲームをプレイしていたときに、何度も見た光景だった。

 ボスを倒したという喜びはない。

 この光景を見て、これほど胸を締め付けられる日がくるだなんて、誰が想像できただろうか。


 ロークルは地面に伏したまま、最後に愛しい者の名前を口にする。

 サクラにはそれで、ロークルの命の灯火は消えたと理解できた。


 しかし、諦めていない者がいた。

 地面に倒れたロークルに近づく影があったのだ。


「──っクロビス? なにをしているのよあの人は……」


 クロビスは倒れたロークルに駆け寄りながら、回復魔法を唱えている。

 淡い光がロークルのからだを包む。

 しかし、当然ながらすでに息絶えているロークルが起き上がるわけもない。


 クロビスは必至の形相で回復魔法を唱え続けている。

 そんなクロビスを眺めながら、首をかしげて不思議そうな顔をしている者がいた。

 倒れたロークルのすぐ近くに、人が立っているのだ。


「へえ、まさかアンタをこんなところでみかけることになるとはね」


 ここは城門を通り抜けた先、領主の住む城の中だ。

 襲撃者を知らせる鐘の鳴ったあと、兵士しかいないはずの空間だ。

 だというのに、その人物はこの領地の兵士や騎士の恰好をしてはいない。


「ふむ、いかにも魔法使いってコーディネートね。ステ振りが変態じみているわりには、無難にまとめているじゃないの」


 事切れたロークルの傍ら、そこに立っている者。

 その人物は先ほど警備兵から聞いた姿、そのままの男だった。


 男が身に着けている装備品。

 つばの広い三角にとがった帽子、先がほんの少しだけ折れ曲がっている。

 地面につきそうなほど長いローブを身にまとい、先端に大きな宝石がはめ込まれた杖を手にしている。


 どこからどう見ても、古典的な魔法使いのスタイルだ。

 男は回復魔法を唱え続けるクロビスに、あっけらかんとした様子で声をかけた。


「もう少しアンタとおしゃべりできるのかと思っていたのに、最初に会ったっきりになっちまってさ。けっこう困ってたんだぜ?」


「…………そんなことは知りませんよ。あなたが勝手にどこかへ行ったんじゃないですか」


 魔法使いの男に話しかけられ、クロビスはようやく回復魔法を唱えることをやめた。

 ぐっと拳を握り、肩を震わせながら男と言葉を交わす。


「ふうん。そんなにそっけないんだ?」


「もともと親しくするつもりなんてありませんよ」


「ほんとに冷たいね」


 魔法使いの男は、サクラの存在には気がついていない。

 せっかくだと、サクラはもう少し男の情報を知ることができないかと思った。

 サクラは気配を消して、魔法使いの男とクロビスの会話を見守ることにした。


「……でも、やっぱりあの人ってば、いろんな稀人に声かけてたのねえ。まあ、そういう役割のキャラクターだったしね」


 サクラはついため息がもれてしまった。

 私以外の稀人に入れ込むなと、クロビスに対してもやっとした気持ちになる。

 まさかこんな思いを抱く日がこようとは、これもまったく想像ができなかった。

 サクラは肩をすくめながら、もういちどため息をついてしまう。



「私はあなたに王となることを望みましたが、仲間を殺してくれとは頼んでいません。どうして、どうしてこんなことをなさったのですか⁉」


「……うわ、面倒くさ。もう少し色々とヒントをくれたりするのかと思っていたのにな。だったら別にここでお別れでもいっかな」


 魔法使いの男が手にしている杖の先端が光った。

 次の瞬間、男は杖を振りかぶり、光がクロビスのからだを貫いていた。


「別にここで敵対するつもりもなかったけど。ヒントなんてもらえなくても、もう知っているしな」

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