サクラは完全に消えて無くなっている城門を通り抜けた。
城門を抜けたその先、広場に向かう道中を警戒しながら歩く。
しかし、そこには稀人の姿はおろか、ここを守っていたはずの警備兵たちの姿もない。
──城門を吹き飛ばすための高火力魔法で一緒に消し炭になってしまった。そう考えるべきかしら?
サクラを案内してくれている警備兵が、この様子に怪訝な顔をしている。
そんなとき、どこからかうめき声が聞こえた。
「…………ぅ、あ…………」
「ディーデリク!」
声の方角を見ると、フルプレートのアーマーを身につけた警備兵がいた。
壁に背中を預け、がっくりと項垂れている。
サクラと一緒にいる警備兵が、大声をあげて駆け寄っていく。
「おい! 意識はあるか? ディーデリク! 聞こえるか?」
「……あ、うあ……うう……」
声をかけられた警備兵、ディーデリクは頭をあげた。
彼はなにかを訴えているが、言葉にはなっていない。
もぞもぞとからだは動くが、それだけだ。
なぜなら、彼には片側の腕と足がない。
指先までのフルプレートのアーマーを身につけていただろうに、肘と膝から先が綺麗さっぱり無くなっているのだ。
そんな状態だというのに、傷口からは血が流れていない。よほどの高温で焼かれたのだろうと推察できる。
──やっぱり高火力の魔法でいっきに蹴散らして突破していったのね。純魔法ビルドならわたしだってそうするもの。
「大丈夫だ。落ち着けよディーデリク。サクラさま、どうにかなりませんか?」
サクラ
いつのまにか、さんからさまへ、警備兵がサクラを呼ぶ敬称が変わっている。
──てかさ、ディーデリクって、名前を呼ばないでよー。名前まで知っちゃったら無視できないじゃん!
サクラと一緒にここまできた警備兵が、ディーデリクの兜を外す。
中からあらわれたのは、きのう城門のところで出会った兵士のひとりだった。
「もう! ますます放っておけないじゃないのー」
サクラはアイテム鞄から回復瓶を取りだして、ディーデリクに飲ませた。
正直、腕や足まで治ると思わなかった。
命を繋げることができれば、それでいいと思っていた。
「……おれの、腕が、足も……。元に戻った?」
「サクラさまが貴重な回復薬をわけてくださったんだ」
「サクラ、さま?」
手足の確認をしていたディーデリクが、空になった回復瓶を持ったサクラに視線をむける。
「……め、女神、さま?」
「女神さまじゃなくて、きのう城門のところで会ったサクラです」
キョトンとした顔で女神と言われて、サクラは脱力した。
さすがに女神と言われてしまうのは、重責を背負いこみすぎてしまう。
「サクラさま、ありがとうございます!」
ディーデリクが泣きそうな顔でサクラの背中に手を回してきた。力強く抱きしめられ、何度も礼を言われる。
「ありがとうございます。ありがとうございます! 救っていただいた命、必ずや巡り神への奉仕という形でお返しさせていただきます。もちろんサクラさまへも全力でお仕えさせていただきたく……」
そこまでディーデリクが話したところで、警備兵が割って入ってきた。
警備兵はディーデリクをサクラから引き離して、頭を下げてくる。
「申し訳ございません。こいつ、腕と足が元に戻るだなんて感動して、一時的に取り乱しただけだと思うのです。無礼を許してやってもらえませんか?」
「そんなの気にしてないから! あのね、それよりも
「しかし、我々は命を救っていただいた身です。そのようにおっしゃられましても」
「お願い!」
サクラが手を合わせて頼み込むと、警備兵とディーデリクの二人はしぶしぶ頷いた。
「よし、先に進みましょう。この先って……」
ロークルさまが守っている城門広場よね、サクラがそう尋ねようとしたときだった。
━━ドオオオオン!
轟音が辺りに響き渡った。
それと同時に、まばゆい光が城門広場の方角で発生したのが確認できた。
途端、ディーデリクがガタガタと震え出す。
「ああ、これは……! 城門を消し飛ばし、仲間の遺体も残さずに殺した魔法です」
ディーデリクの顔が怯えきっている。
彼は頭を抱えて縮こまってしまった。
「ここからはひとりでいくわ。あなたは残ってディーデリクさんについていてあげて」
「しかし! いまの光はあまりに危険です」
「大丈夫だから、ね?」
サクラはそう言って微笑みかけると、二人に背を向けて走り出した。
青白く輝く光。
それは純魔法ビルドが使える最強の攻撃魔法。
発動には時間がかかるが、たいていの大ボスはこれを2回か3回当てれば倒せる。
「最初に出会う中ボスなんて、一発あてれば十分すぎる。お願い、生きていてロークルさま」