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第9話

 サクラが警備兵に連れられて城門にたどり着いたとき、すでに門は破られていた。


「──っそんな! まさかもう城門が破られているだなんて……」


 警備兵が跡形もなく城門が消えていることに絶句している。


「たしかにね。これはひどいわ」


 ゲーム内で門を開ける方法はいくつか存在する。


 たいていは門の前にいる警備兵を根こそぎ倒したのち、城門脇の通用門から城内に進入する。

 そして、門の脇にある小部屋の中に入り、城門の開閉装置であるレバーを動かす。


 もしくは、城をぐるりとまわって裏手から侵入する。

 城門前にいる警備兵を無視して小部屋に入り、門を開ける方法だ。


 この二つの方法を、多くのプレイヤーが実行するだろう。

 しかし、城門を開けるには、もうひとつ方法が存在する。

 それは、単純明快、正面から城門をぶち壊すという方法だ。


 ──だけど、この方法をとれるプレイヤーなんて限られている。てか、できることを知っていたって、時間がかかりすぎるから普通はやらないのよ。


 城の正面入り口である城門。

 城内への侵入者をふせぐ、絶対的な関門でなければならない。

 当然ながら、その耐久値は非常に高い。


 サクラはステータスの中で筋力がカンストしている。

 物理攻撃力が突出しているビルドを組んでいるのだが、それでも城門を壊して通ろうとしたら、30分以上はかかるかもしれない。

 実際にサクラがゲーム内で門を壊そうと試したとき、100回ほど門を武器で叩いて諦めた経緯がある。 


 しかし、この城門にはひとつだけ弱点が存在する。

 それが、魔法の耐久値が低いということだ。


 ──それでも普通は門を壊すなんてことはやらないのよ。でも、実際に門は消し飛んで跡形もない。つまり、相手は魔法攻撃力のみをカンストさせた純粋な魔法ビルドである可能性が濃厚!


 これはサクラにとって、想定していた中ではかなり良いほうだ。

 警備兵から襲撃者の特徴を聞いて、相手が魔法使いであることは把握していた。


 しかし、魔法使いとひと口に言っても、大きく二通りの系統がある。

 純粋な魔法攻撃力特化型のビルドと、状態異常を狙った信仰系魔法を使うビルドだ。

 前者は「魔法」というステータス項目にのみ数字を振っていて、後者は「魔法」と「信仰」の二つのステータス項目に数字を振っている。


 ──稀人の襲撃を知らせる鐘の音が鳴ってから30分は経ってない。つまり、襲撃者はこの城門を短時間で壊している。ほぼワンパンでぶち抜いていると考えると、信仰補正はないと考えていい。


 信仰系魔法は「魔法」の項目のみにステータスを振った場合と比べると「信仰」に数値を持っていかれている分、魔法攻撃力が大幅に落ちる。

 それは信仰系魔法には特殊な状態異常、バフ・デバフが付与できる魔法が多いからである。


 たとえば、信仰系魔法には毒や出血の状態異常などを相手に付与するデバフ魔法がある。

 しかし、その魔法を使用したのであれば、血の通っていない城門が相手ではまったく効果が発揮されない。

 信仰系魔法は特殊効果が発揮されなければ、そこらへんにいるモブ敵ですらほぼかすり傷程度のダメージしか与えられないのだ。


 ──信仰系魔法でビルドを組まれていると、相手がどの系統の魔法を使うのか見極めなければいけないところだったけれど。純魔法ビルドならそれを警戒しなくて済む。つまり、ただただ単純にってことだからね!


 ステータスに振れる数字には上限がある。

 城門を短時間で壊せるほどの魔法攻撃力。

 魔法攻撃力以外の他のステータスに数字を少しでも振っていたら、武器の派生補正が付いていたとしても不可能。


「魔法攻撃力に極振りとはねえ。これはなかなかの変態さんとご対面できるんじゃないかしら?」


 サクラが不敵な笑みを浮かべると、警備兵が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

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