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第8話




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「ありがとう、話を聞けて助かったわ」


 サクラは一通り警備兵から稀人についての話を聞くと、勢いよく立ちあがった。


 ──武器と防具で相手のビルドはわかった。正直、わたしとの相性が良いとは言えないけれど……。だからこそ立ち回り方法は心得てる!


 ゲームをしていると、たびたびビルドという単語を耳にすることになる。

 ビルドとは、プレイヤーキャラクターの能力を決定する構成要素のことである。


 ビルドと聞くと、キャラクリ時に選べる職業によってだいたいは決められてしまうと思っている人が多い。

 ゲームによっては、それは間違いではない。

 むしろ、それが最も重要なことでもある。


 しかし、このゲームにおいて、それは間違いだ。

 このゲームには多種多様な武器種、武器が存在する。

 そのそれぞれの武器を、どのように派生強化させていくのかで、多彩なビルドを作ることができるのだ。


 プレイヤーキャラクター自体の職業が同じで、ステータスが似通っていても、持つ武器の組み合わせや派生によって、立ち回りがまったく異なる。

 正直、プレイヤーキャラクター自体のレベル差が圧倒的に開いていたとしても、武器の派生強化、組み合わせ次第によっては、勝敗がまったく読めないほどなのだ。



「お待ちください。まさか、城へ向かうおつもりですか?」


 サクラが立ち上がると同時に、警備兵に声をかけられた。


「ええ、クロビスのことが気になるから。少し様子を見にいこうと思っているの」


「っそんな! 少し見にいこうだなんて、観光でもしにいくような感じで言われましても困ります!」


「大丈夫。わたし、けっこう強いから」


 にこりと微笑むと、警備兵は呆れた顔をした。


「戦が長く続いているので、流浪の民の中には武装する者もいるとは聞いておりましたが……。まさかサクラさんがそのおひとりだなんて。さすがあの軍医殿と恋仲になる方は違うと言いますか……」


 警備兵は頭を抱えぶつぶつと呟いている。


「用件がないならもう行くわ。いくら回復したからって、あなたも無理はしないで」


「お待ちください! そのまま行かれても、城の中に入れないかもしれません。私がご案内します」


 失礼、そう言って警備兵はサクラの腕を掴んで走り出す。


「あ、ありがとう。私としてはすごく助かるけど、あなたはここを離れてもいいの?」


「私がこうしてサクラさまと出会い、命まで救っていただけたのは、巡り神の加護あってのことでしょう。でしたら、サクラさまの望みを叶えるのは信徒としてのつとめです」


 誇らしげに語る警備兵の様子を見て、ちくりと心が痛んだ。


 ──さっきのヴァルカさん見てても思ったけど、この街の人って巡り神信仰の人が多いのかな? 完全に見た目の可愛さ重視で選んだ装備だけど、実はコレ大正解だったやつなの?


 このゲームの世界は北欧神話をベースにしているだけあって、さまざまな神が存在する。

 巡り神というのもその一柱だ。


 そして、流浪の民は巡り神の血を引いた一族とされている。

 流浪の民である旅の踊り子の衣装を身につけているサクラは、巡り神の信徒にとっては神の使いに等しいのかもしれない。


「稀人が二日も続けて襲ってくるだなんて未曾有の危機です。そんなときに巡り神の眷属の方がいらっしゃるなんて。ようやくこの地にも春がくるのですね!」


「あ、あはは。そうだね、そうなるように努力します」


 期待されている。

 サクラはとんでもない希望を背負わされた気がした。

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