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サクラは結局、城の地下に行くことはできなかった。
最初こそ、順調に城の中を進んでいた。
しかし、城の奥に進むにつれて、廊下に人が溢れてきてしまった。
サクラがベルヴェイクと話をしている間に、警報が解除されたらしい。
非戦闘員と思われる使用人服を着た者たちが、徐々に廊下を行き交うようになってしまったのだ。
──迂闊だったわ。ゲーム内じゃ城の中に兵士以外はいなかったから。常識的に考えれば、これだけ広い城だもん。兵士以外の人がいっぱいいるに決まっているよね。
サクラはコソコソ廊下の隅に隠れていたが、とうとうみつかってしまう。
「は、初めて城にきたので迷子になってしまいましたの。避難するにはどこに行ったらいいのでしょう?」
サクラは苦し紛れにそんなことを言った。
ダメかもしれないと思ったが、相手は意外にもすんなりと信じてくれた。
出くわしてしまった相手は、もう警報は解除されたから、そう言ってサクラをクロビスがいた部屋まで送ってくれた。
そして、サクラがクロビスのいた部屋の前に着くと、そこには城門のところで出会った警備兵が立っていた。
警備兵はクロビスが忙しくて手が離せないので、サクラを自宅まで送るように頼まれたのだと言う。
──街に襲撃があったのなら、負傷者がたくさんいるかもしれないもんね。クロビスはお医者さんだから、忙しいのかな。無理しないといいけど。
サクラはクロビスの身を案じつつ、彼が人を寄越してくれたことに喜びを感じていた。
あとでクロビスにきちんとお礼を言おう。
そう心に誓って、サクラは領主の城をあとにした。
そうして、サクラはクロビスの自宅まで帰ってきたのだった。
「まあまあ。ここしばらくは稀人の襲撃なんてなかったですのに」
「送ってくれた兵士の方が、被害は少ないほうだったって言ってたわ」
「ええ、ええ。それにしたって商人の屋台がいくつか駄目になってしまったと聞きましたのよ。嫌ですわ、まったく」
クロビスの自宅に帰ってきてから、ヴァルカがサクラのそばを離れない。
彼女なりにサクラの心配をしていたらしい。
あれこれと、いつも以上に世話を焼いてくれている。
今日だけは、ヴァルカがおいしい食事を作ってくれた。
サクラは手伝うと言ったのだが、手出しするなと止められてしまう。
ヴァルカ特製の夕食が完成した。
サクラの作る料理とは違い、どれもとてもおいしかった。
サクラとヴァルカが食事を終えても、クロビスとノルウェットは帰ってこなかった。
玉座を狙う他勢力の襲撃があった日は、軍属の二人は帰ってこないことが多い。
ヴァルカからそう聞いていたし、この世界きて三か月の間、二人が夜勤などで数日帰ってこないことも珍しくはなかった。
サクラはなんの疑問も持たずに就寝した。
その日の深夜。
玄関の開く音がして、サクラは目が覚めた。
「クロビスとノルくんが帰ってきたのかな?」
サクラは寝ていたベッドから飛び降りると、寝巻きの上にストールを羽織った。
与えられている自室からでると、足早に玄関に向かう。
「お帰りなさいませ、ご主人さま」
玄関の中にクロビスがいた。
しかし、ノルウェットの姿が見当たらない。
「……あれ、ノルくんはどうしたの? まだ残業中なのかな」
サクラが尋ねると、クロビスは淡々と答えた。
「……………………死にました」
「え、いまなんて言ったの?」
「ノルウェットは死にました」