声は扉の向こう側から聞こえてくる。
早くこの場を立ち去りたいのに、足がうまく動かない。動かせない。
扉の向こう側へ行きたくてたまらない気持ちになる。
「……資格って、なに?」
湧き上がってくる感情を消し去りたくて、サクラは語気を強めて問いかけた。
『知りたければこちらへこい』
この声は聞いていてはいけないものだ。
そう思う心は残っているのに、サクラはどうしても抗えなかった。
サクラは目の前の扉に、もういちど触れてみる。
すると、扉はほんの少し触れただけで勝手に動いていく。
重厚そうな扉が、音も立てずにすうっと開いていく。
『躊躇うことはない。知りたいことがあるのだろう?』
扉はあっという間に人がひとり通れる隙間が空いた。
サクラは吸い込まれるように、その隙間にからだを滑りこませた。
サクラは扉を通り抜けて部屋の中に入る。
すると、扉は音を立てずに閉まってしまった。
『ようこそ。ひさしぶりのお客さんだな』
声は部屋の中央から聞こえてくる。
サクラは部屋の中央にあるものを、じっとりと睨みつけた。
「姿は見せてくれないのね?」
『お前が信用するに足る者かもわからないのに、姿をあらわせるとでも思うか?』
「私はあなたを知ってる。この部屋の中に入って、はっきり思い出したわ」
この部屋の中は、全体的に薄く水が張っている。
扉の前から一歩先へ進むと、足首まで水に浸かってしまう。
サクラは靴が濡れることになんてかわまず、水音を立てながら部屋の中央へ進んだ。
部屋の中央には、サクラの腰の高さほどの小さな木が生えている。
ゲーム内でファストトラベルができる地点は、みな同じような作りになっていた。
きらきらと光り輝く小さな木。
そのまわりを囲むように、水が浅くたまっている。
木が放つ光が水面に反射して、幻想的な雰囲気を醸しだしている。
ゲーム内では、この木に近づくと操作アイコンが表示される。
この木はゲーム内でプレイヤーが死んだときのリスポーン地点にもなっているのだ。
そのため、ここではファストトラベル以外にも、さまざまなことができる。
持ち運ぶアイテムを変えたり、ダンジョン攻略中に貯めた経験値でステータス値をあげることも可能だ。
しかし、いまは木に近づいたところで操作アイコンは表示されない。
その木に向かって、サクラは声をかけた。
「嘆きの王子、ベルヴェイクさま」
サクラが名前を呼んだ途端、小さな木の中からぬうっと影が飛び出してきた。
淡く光り輝く白い影は、すぐさま人の形になる。
バシャンと大きな水音がする。
あらわれた影が長身の男の姿になり、水の張った床に足をついた。
『……ほお、声だけで私がわかるとは。やはり貴様は