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第11話

「……こんなところにひとりで、どうしろってのよ……」


 たったひとり、取り残された部屋の中。

 サクラは心細くて、声に出してぼやいてしまった。


 この世界にやってきて三か月。

 なにごともなく平和に過ごしてきた。


 つい忘れてしまいそうになるが、この世界は玉座を巡った争いの真っ最中なのである。

 順当にストーリーを進めていくと、プレイヤーは戦争によって荒廃した村や、焼け野原になった森などを、何度も訪れることになる。


 ゲーム序盤にプレイヤーが訪れるこの土地は、ゲーム内マップの中では比較的に緑豊かで平和な印象を受ける。

 しかしながら、小競り合いが全くないわけではない。

 マップ内を探索していると、この土地の兵士たちと、他勢力の兵士たちが争っている場面に遭遇することがあるのだ。


 おそらく、いま鳴っている警報音も、どこかの勢力が街を襲いにきたのだろう。


 ──他勢力の最たる例が主人公プレイヤーの存在なのだろうけど、私はここにいるしな。まさか、前にクロビスが言っていた、私以外の異世界人が攻めてきたなんてこと……ないよね?


 こういった不測の事態がおきたとき、どう行動するべきなのか。


 その場にとどまるべきか。

 それとも、解決の糸口を探すために動きまわるか。


「わかっているよ。いまはさ、本当は動かないほうが賢明な判断だよね。だけど、やっぱり気になるから!」


 サクラは覚悟を決めた。


 ここはもう領主の城の中だ。

 ここでなら負けイベントが発生することはないはずだ。


 サクラはそっと部屋の扉を開けて、廊下に顔を出す。


「もう誰もいない。てゆか、警報も止まっちゃったしね。妙に静かなのが怖いな」


 上下左右、あらゆる角度を確認してから、サクラは廊下に出た。

 そっと後ろ手で扉をしめる。


 ──襲撃者の存在を確認しよう! もし私と同じ異世界からきたプレイヤーだとしたら、どんな風に戦うのか興味があるもんね。


 これは自分の命を守るための情報収集だ。

 無謀な探索にでかけるわけではない。


「とりあえずクロビスの言ったとおり、もと来た道とは逆方向に行こう。城の正面入り口に向かっていって、襲撃者とかち合うのだけはまずいもんね」


 この城にはいくつかの侵入ルートが存在する。

 サクラはそのうちのひとつ、地下ルートに向かうことにした。


「この城の地下って、なぜか屋上に直結している昇降機があるんだよね。屋根の上からなら城の中だけじゃなくて、街のほうまで見えるはず」


 サクラはそろりそろりと、音を立てずに廊下を進む。

 ゲーム内の城内マップは、頭の中に存在している。


「クロビスのいた部屋に行くまでの道のりでも思ったけどさ。やっぱりゲーム内オブジェクトと、こうして目にしているお城の内部って少しだけ違うのね」


 城の建物としての作りという大枠に違いはなさそうだ。

 だが、飾られている装飾品などに、細かい相違がある。


「そもそも、ゲーム内じゃすべての部屋に入れたわけでもなかったしなあ。扉はあるのに開かないところばっかりだったし」


 そんなことを思い出して、サクラは背筋に冷たいものが走る。


「……もしかして私、また知っているつもりになってるのかな。選択を間違えたかも?」


 そう思ったところで、もう部屋を出てだいぶ歩いている。

 引き返す判断をするのには遅すぎた。



『ほお、珍しい客がいるな』


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